まなじりに濃き歳月は波立ちてカトリーヌ・ドヌーヴ湖(うみ)の
ごとく老ゆ 島田 修三
年齢を重ねた女性の美しさをこんなふうに詠った歌はあまりない。彫りの深い顔立ちは皺が刻まれやすいのだが、それは生きてきた軌跡を示すものであり、忌避するものではないと思う。日本では「カラスの足跡」といった言われ方もするが、眼尻の皺を「波立ち」に喩えて湖面のさざ波を連想させ、人間的な深みを増した女優を「湖のごとく」と表現した巧さに感じ入る。翳りを帯びた底知れぬ湖であろうか。
1950年生まれの作者にとってカトリーヌ・ドヌーヴは、ちょっとお姉さんというくらいの年齢だ。作者は少年時代からスクリーン上の彼女に胸をときめかせていたのかな、と想像した。
ドヌーヴは10代のころから映画に出演していたが、21歳で主演したミュージカル映画「シェルブールの雨傘」のヒットで一躍有名になった。映画は観たことがなくても、あの甘く、もの悲しいテーマ曲を一度くらいは聞いたことがあるという人が多いのではないだろうか。そして、その美しいメロディーと、「シェルブール」というやわらかな響きの地名を重ねて記憶している人も少なくないだろう。
実は、私はカトリーヌ・ドヌーヴの映画はほとんど観ていない。しかし、「シェルブール」のやさしく抒情的なイメージは、若きドヌーヴの美貌とぴったり結びついている。だから、旧科学技術庁を取材していたとき、原子力関係の記者レクで思いがけなく「シェルブール」と出合ったときは驚いた。フランスの再処理工場では、国内だけでなく日本やドイツなどの原発で使われた使用済み核燃料を扱っており、そこで処理された高レベルの放射性廃棄物が運び出される港こそノルマンディーの軍港、シェルブールだったのである。
フランスの工場では、使用済み核燃料の再処理だけでなく、プルサーマル発電に使われるMOX燃料への加工も行われている。ウラン燃料を再利用するプルサーマル発電についてはさまざまな議論があり、今春、MOX燃料を積んだ輸送船がシェルブールから日本に向けて出港する際には、環境保護団体の抗議行動もあった。今月、国内でもいよいよプルサーマル発電が始まろうとしている。ドヌーヴの憂愁を帯びた「まなじり」に、何となく核燃料サイクルを巡る憂鬱を重ねてしまうのであった。
☆島田修三歌集『東洋の秋』(2007年12月、ながらみ書房)
★お知らせ
「わたしたちの先輩 与謝野晶子」と題して12月2日(水)に東京都新宿区で講演します。
お近くにお住まいでご興味のある方は、どうぞいらしてください。
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