
朝光(あさかげ)のなかに蕾をひらきたり百合は世界の四隅にむきて
小林 幸子
石垣島に引っ越してくるとき、一番楽しみにしていた季節がやってきた。わが家からほど近い御神崎(うがんざき)という灯台のある岬に、テッポウユリが咲くからである。
引っ越したのは昨年4月30日で、既にユリは終わっていた。夏以外の季節に何度か島を訪れたが、ユリの咲く季節だけは逃していたので、今年こそは!と楽しみにしていた。
かつては野生のユリが咲き乱れていたそうだが、イノシシに球根を食べられたりして、減ってしまったという。それでも、けさ行ってみるとあちこちに咲いていて、すっかり嬉しくなった。
御神崎は景勝地として知られるスポットで、小さな灯台や断崖絶壁の下に広がる青い海が、とても美しい。わが家から車で5分ほどのところなので、友達が本土から遊びに来ると、必ずここへ連れてゆくことにしている。断崖に当たって波が砕ける様子を見ると、みな決まってTVドラマの真似をして、がっくりと膝を突き「わたしがやりました!」という台詞を口にするので可笑しくてならない。
この歌は、「世界の四隅」に向く、という捉え方に、はっとさせられる。少しうつむき加減に咲くユリは、思慮深く「四隅」を見つめているようだ。中心でなく「四隅」というのは、有限な世界であることを指すのだろうか。私たちも世界の隅を静かに見つめ、大切なものについて考えを深めないといけないのではないか、と思わされる一首である。
☆小林幸子歌集『シラクーサ』(ながらみ書房、2004年8月)