
特急券を落としたのです(お荷物は?)ブリキで焼いたカステイ
ラです 東 直子
お菓子の型というものは、何となく持っているだけで楽しい。いつか作るケーキやゼリーが目に浮かんで、心が浮き立つ。
型の素材はステンレスや銅などいろいろだが、鉄にスズをメッキ塗装したブリキ製のものは最近ほとんどないようだ。「ブリキ」という言葉には、何ともいえないノスタルジーと温かみがあって、ほんわかさせられるのだけれど。
このところ、稲垣足穂のことを調べているのだが、次のような一節に出会って、東直子さんの歌を思いだした。
「お月様が出ているね」
「あいつはブリキ製です」
「なに ブリキ製だって?」
「ええどうせ旦那、ニッケルメッキですよ」(自分が聞いたのはこれだけ)
(『一千一秒物語』の「ある夜倉庫のかげで聞いた話」)
これは「お月様」がブリキ製だといっているのだが、私は東さんの歌のイメージから、どうしてもブリキの型で焼いたホットケーキのような月を想像してしまうのだった。
写真は、先日母から送ってもらった型。石垣島のスーパーや百円ショップではどうしても見つからなくて頼んだ。右側は、「クグロフ」と呼ばれるアルザス地方のお菓子の型らしいが、ゼリーを作ってもきれいだと思う、と選んだそうだ。さて、仕事が終わったらお菓子を作ろうか!
☆東直子歌集『春原さんのリコーダー』(本阿弥書店、1996年12月)