2012年11月13日

恋の不思議

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 私より10歳ほど若い友人と話していて、彼女がパートナーについて「もう最近、『死ね!』とか思っちゃうことがある」と明るく言うので、笑ってしまった。そして、それも愛なんだよね、としんみりした気持ちになった。
 一緒に暮らすようになると、本当につまらないことで苛立ったり、ぶつかり合ったりする。「死ね」とは思わないまでも、「もう、こんな人、いなければいいのに」と思う瞬間は、多くの人が経験しているのではないだろうか。初めてそんな気持ちになったとき、自分自身に対して情けなくて、心底悲しくなったのを覚えている。あんなに大切に思っていた人、誰よりも大好きな人に対して、どうしてこんな感情を抱かなければならないのか、あのとき関係がダメになっていた方がよっぽどよかった――そう思うと、とめどなく気持ちが落ち込んだ。
 けれども、相反する感情を抱くのもまた、恋の不思議さなのだろう。

  一度だけ「好き」と思った一度だけ「死ね」と思った 非常階段
                          東 直子


 最初に読んだ1997年当時、私は歌の意味がよく分からなかった。「東さんって、おもしろい歌をつくるなー。映画みたい」なんて思っただけだった。
 この「死ね」は、暮らしを共にした結果の憎らしさではなく、かなり深く鋭い感情だ。それほど激しい「好き」なのだ。「一度だけ」の繰り返しから、その恋が短期間だったことが分かる。「非常階段」がさらに切羽詰まった雰囲気を演出しているのが巧みだ。

  馬を洗はば馬のたましひ冴ゆるまで人恋はば人あやむるこころ
                          塚本邦雄


 恋は怖い。本気の恋は、激しい愛憎の両極を行ったり来たりする。そして、めでたく成就して共に暮らすようになってからも、日常の「好き」の合間に「死ね」と思う瞬間が混じったりする。
 あっけらかんと「『死ね!』とか思っちゃう」と言った友人に、東さんの一首をメモ用紙に書いて渡すと、一読して「ね、これ、不倫の恋じゃない?」と首をかしげる。理系出身の彼女は、短歌とは何の縁もない人だ。おぬし、やるな。

  *東直子歌集『春原さんのリコーダー』(本阿弥書店・1996年12月刊行)
  *塚本邦雄歌集『感幻樂』(白玉書房・1969年9月刊行)

posted by まつむらゆりこ at 19:32| Comment(8) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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