
もういちど逢うなら空をつきぬける鳥同士でねそしてそれは夏
江戸 雪
夏のエネルギーは確かに、心身に作用する。恋の始まりが夏に多かったのは、そのせいだったのだろうか。
この歌は、過ぎ去った恋をなつかしんでいるのだが、単なる回想ではなく、「もういちど逢う」ことにかなり思いが傾けられているようだ。
「切なくもあの恋は終わってしまったけれど、今度逢うときはお互い鳥になって逢いましょうね。何にも束縛されず、自由に翼をはばたかせて、どこまでも高く二人、飛んでゆきましょう」
けっこう危険なのだ、この歌は。
「そしてそれは夏」と、季節を限定しているところに、ぞくぞくさせられる。作者と、恋の相手にしかわからない「あの夏」を指しているから。
一首だけで、いろいろな空想(妄想?)を楽しむことができるのが、短歌のよいところ。この作者は、こういう美しい飛躍を見せてくれるのが実に巧い歌人である。
☆江戸雪歌集『声を聞きたい』(七月堂、2014年7月刊行)