2014年08月17日

それは夏

0817江戸雪「もういちど」.jpg

  もういちど逢うなら空をつきぬける鳥同士でねそしてそれは夏
                         江戸 雪


 夏のエネルギーは確かに、心身に作用する。恋の始まりが夏に多かったのは、そのせいだったのだろうか。
 この歌は、過ぎ去った恋をなつかしんでいるのだが、単なる回想ではなく、「もういちど逢う」ことにかなり思いが傾けられているようだ。
「切なくもあの恋は終わってしまったけれど、今度逢うときはお互い鳥になって逢いましょうね。何にも束縛されず、自由に翼をはばたかせて、どこまでも高く二人、飛んでゆきましょう」
 けっこう危険なのだ、この歌は。
 「そしてそれは夏」と、季節を限定しているところに、ぞくぞくさせられる。作者と、恋の相手にしかわからない「あの夏」を指しているから。
 一首だけで、いろいろな空想(妄想?)を楽しむことができるのが、短歌のよいところ。この作者は、こういう美しい飛躍を見せてくれるのが実に巧い歌人である。

  ☆江戸雪歌集『声を聞きたい』(七月堂、2014年7月刊行)
posted by まつむらゆりこ at 18:32| Comment(4) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年08月15日

虹を見つける

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 「ワジワジする」というのは、沖縄の言葉で「いらいらする、腹が立つ」といった意味である。「にぃにぃ(お兄さん)」「ねぇねぇ(お姉さん)」などの言葉は、子どもたちもよく使う。
 こんな畳語は、ハワイにも多いようだ。「ウリウリ=濃い青、ひょうたんの楽器」「オラオラ=長寿」「ホイホイ=楽しい」など。大型で釣り人に人気のある魚、シイラは、ハワイでは「マヒマヒ」と呼ばれる。

  マヒマヒという魚の棲む魚 南では名づけることが虹を生むのだ
                        井辻 朱美


 聞きなれない言葉の響きは、私たちを日常から離れた世界へ連れていってくれる。この作者は「マヒマヒ」に、南島の「虹」を感じた。魚を見つけた人たちの気持ちがはずむ感じが、言葉に込められているからだろうか。結句のきっぱりとした断定が心地よい。
 ハワイ語の虹は「アーヌエヌエ」。日々の小さな出来事に「虹」を見つける心を大切にしたい。

  ☆井辻朱美歌集『クラウド』(北冬舎、2014年7月刊行)
posted by まつむらゆりこ at 10:54| Comment(3) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年08月09日

小さな喜び


0809マブヤー.jpg

 あってもなくても日々は過ぎてゆくけれど、あると心が豊かに満たされ、しあわせな気持ちになる−−詩歌や音楽は、そんなものだと思う。

  ヒーローはみんなを助ける人なりと京王線にをさなご元気
                       今野 寿美


 最近届いた歌集を読んでいて、ほっこりと嬉しくなった。
 「ヒーローってね、みんなを助ける人なんだよ!」
 車両中に響き渡るような明るい大声は、3歳か4歳くらいの男の子のものだろうか。これくらいの「をさなご」の一所懸命なかわいさといったらない。その名セリフに続けて、何かの主題歌でも歌い出したのかもしれない。「をさなご元気」という結句が、たまらなくよい。
 作者は、古典の素養が深く、韻律の美しい優雅な詠みぶりで知られるが、この一首では「みんな」「京王線」「元気」という撥音を連ね、弾むようなリズムで一首を作っている。「ヒーロー」とか「みんなを助ける」なんていう、ごくふつうの言葉が輝いているのも見事だ。
 小さな子が「元気」でいることが、おとなにとっては一番のしあわせだ。それは、その子の親だけではない。「社会」なんて大きく構えてしまうのも何だけれど、見知らぬ子どもを眺めていても、私は充分に満たされ、この世界が少しはよい方向へ向かうことを祈ってしまう。たぶん作者にとっても、この「をさなご」は京王線の車両(ホームかな?)でたまたま遭遇した子で、だからこその幸福感が一首に満ちているのではないかと思うのだ。
 歌集を読む喜びは、こんな一首に出会うことにある。胸の深いところを揺さぶる歌もいい。涙を誘われる感動的な歌もいい。けれど、くすりと笑ってしまう歌、誰かに教えたくなるあったかい歌のよさも忘れてはならない。

 ☆今野寿美歌集『さくらのゆゑ』(砂子屋書房、2014年7月刊行)
posted by まつむらゆりこ at 18:26| Comment(4) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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