2014年08月09日

小さな喜び


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 あってもなくても日々は過ぎてゆくけれど、あると心が豊かに満たされ、しあわせな気持ちになる−−詩歌や音楽は、そんなものだと思う。

  ヒーローはみんなを助ける人なりと京王線にをさなご元気
                       今野 寿美


 最近届いた歌集を読んでいて、ほっこりと嬉しくなった。
 「ヒーローってね、みんなを助ける人なんだよ!」
 車両中に響き渡るような明るい大声は、3歳か4歳くらいの男の子のものだろうか。これくらいの「をさなご」の一所懸命なかわいさといったらない。その名セリフに続けて、何かの主題歌でも歌い出したのかもしれない。「をさなご元気」という結句が、たまらなくよい。
 作者は、古典の素養が深く、韻律の美しい優雅な詠みぶりで知られるが、この一首では「みんな」「京王線」「元気」という撥音を連ね、弾むようなリズムで一首を作っている。「ヒーロー」とか「みんなを助ける」なんていう、ごくふつうの言葉が輝いているのも見事だ。
 小さな子が「元気」でいることが、おとなにとっては一番のしあわせだ。それは、その子の親だけではない。「社会」なんて大きく構えてしまうのも何だけれど、見知らぬ子どもを眺めていても、私は充分に満たされ、この世界が少しはよい方向へ向かうことを祈ってしまう。たぶん作者にとっても、この「をさなご」は京王線の車両(ホームかな?)でたまたま遭遇した子で、だからこその幸福感が一首に満ちているのではないかと思うのだ。
 歌集を読む喜びは、こんな一首に出会うことにある。胸の深いところを揺さぶる歌もいい。涙を誘われる感動的な歌もいい。けれど、くすりと笑ってしまう歌、誰かに教えたくなるあったかい歌のよさも忘れてはならない。

 ☆今野寿美歌集『さくらのゆゑ』(砂子屋書房、2014年7月刊行)
posted by まつむらゆりこ at 18:26| Comment(4) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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