
ミント風味の清涼菓子「フリスク」のテレビCMは、いろいろなバージョンがあって、どれにも妙なおかしさが漂う。ちょっとアブナイ感じのものもあるのだが、それだけ売れているのだろうな、と思う。
だからだろう、若者の歌にも多く登場する。
福島の雪ではないがFRISKをがりがり嚙んで初校をめくる
齋藤 芳生
プラシーボ効果を狙い「ぱきしる」とつぶやきながら食べるフリスク
月原 真幸
1首目の作者は福島出身の人。この歌は、東京で編集の仕事をしながら、ふるさとの雪を思った場面だ。しんみり懐かしみたいところだろうが、職場は多忙を極め「がりがり」とミント菓子を噛み砕くようなストレスの中で思い返している。
子どものころ雪のかたまりを口に含んだ記憶がよみがえったのだろうか。心情的には結構つらい感じだが、白い「雪」と「FRISK」の重なり具合が美しい。
2首目の「ぱきしる」は、うつや強迫性障害などの患者に処方されるパキシルのことだろう。この作者はかつてパキシルを服用していたことがあり、今は薬を飲まなくてもよい状態にまで回復した――と解釈した。けれども、思わぬときに不安やうつ状態に襲われ、「これはパキシル。パキシルなんだから、飲めば落ち着くはず!」と自分に言い聞かせつつ、フリスクを口に含むという場面である。
プラシーボ効果は偽薬効果とも呼ばれる。人間は不思議なもので、「これは実によく効く薬ですよ」などと言われて服用すると、効能のないものでも痛みや不眠が改善する場合があるのだ。しかし、それはあくまでも他者に渡されて信じた場合であって、自ら「プラシーボ効果を狙い」なんて言うところに、この歌の可笑しさと切なさがある。
★齋藤芳生『湖水の南』(本阿弥書店、2014年9月)
★月原真幸「短歌研究」2014年9月号、短歌研究新人賞最終選考
通過作「これはバグではなく仕様です」より