2008年07月11日

初心

KICX1399.JPG

 習いたての異国のことばの明るさに三・三・二・二・二という拍子
                     松村由利子


 初心忘るべからず、ということばをつくづく思うこの頃である。なぜか。最近、フラメンコのレッスンが楽しくないからだ。始めたばかりの頃は、「習いたての異国のことば」に触れるように、何もかもが面白くて楽しかった。しかし、このところ進歩がなく、自分の運動神経の悪さにうんざりするばかりなので、レッスンに行っても悲しくなってしまう。
 いま教わっているのは、アレグリアスという明るくて軽快な踊りである。「1・2・3/4・5・6/7・8/9・10/11・12」という、まさにこの歌の「三・三・二・二・二という拍子」の曲に乗って踊る。私にはまだまだ難しいのだが、この頃ようやく、何となく踊りを覚えたかな、と思えるようになってきた。ところが、先日のレッスンで愕然とした。曲の途中で、先生に「そこ、あけないで!」と鋭く注意されたとき、1分間くらい意味がわからなかったのである。
 曲の途中に3拍子のリズムが連続するところがある。私は「タラ・タ、タラ・タ……」と取っていた。「タラ」はプランタ・タコンという、つま先で打った後同じ足のかかとで打つ部分、「タ」のところは、ゴルペという靴底全体で打つ部分である。先生は、「タ・タラ、タ・タラ……」と、3拍子の頭にアクセントが来るようにリズムを取れ、と言っていたのだ。
 12拍子という長いコンパスなので、中でどうリズムを取っても全体の辻褄が合えばよいような気がするが、それではダメなのだった。しかし、別に歌いながら踊っているわけでもないし、どうして私が「タ・タラ」でなく「タラ・タ」と取っているのかがわかったのだろう。先生はすごい。拍と拍の間のわずかな休止の違いを聞き分けて、私のリズムの取り方が違うことを指摘したのだ。
 ものを習う、ということの面白みはこんなところにある。自分が到達できない境地にいて、自分には見えないものが見える先生をもつこと。会社で「できる上司」をもつ喜びにも、似たところがあるかもしれない。初心を思い出し、来週もまた叱られに行こう。

☆歌集『鳥女』(本阿弥書店、2005年)
posted by まつむらゆりこ at 00:15| Comment(12) | TrackBack(0) | 情熱のフラメンコ短歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
松村様
お久しぶりです。この三三二二二のリズムはヘミオラといいます。全体を12拍子と数えないで、大きな2拍子とします。すると、最初の6拍は2拍子、そしてあとの6拍は3拍子となり、12拍子で数えた時の裏返しになります。この二と三の繰り返しはあらゆる宗教音楽や、トランスミュージック、アフリカの太鼓、日本の太鼓にもあるリズムで、気を高揚させる働きがあります。普通の人はこの2と3の繰り返しが続くと数えられなくなるからです。しかし、このリズムを面白く演奏するにはすべての拍が等しい長さで無いと効果がありません。ですからリズムのどこかが間延びしたり、寸詰まりになるとプロの耳には障るのです。きっと短歌も57577の陰に潜むこのような微妙なリズムがあるのでしょうね。初心者の私には未だ聞こえてきません、、、、ウーム。
この夏は一時帰国します。機会があったらお会いしたいです。
Posted by princesselierre 改め つた姫 at 2008年07月11日 06:45
つた姫さん、
あっ、なるほど!
前半の6拍は2拍子、後半の6拍は3拍子で数えると、大きくつかめていいですね。
そして、短歌もまた2と3の繰り返しであるとは!!(深いです〜)
一時帰国なさるとき、ぜひお会いしたいです。
Posted by まつむらゆりこ at 2008年07月11日 09:08
この歌は、松村さんのブログを読み始めたときに読んだ憶えがあります。
やはり、よほど思い入れが深いのでしょうか。
下句はリズミカルで心地よい感じがしますね。
フラメンコもですけど、ダンスって、拍をとるのが難しそうです。
「ウッチャンナンチャンのウリナリ!」で飽きるほどダンスを見てたんですが、ケガとかも激しくて、番組とはいえ、感情移入していました。

しかし、作歌に仕事、家事などもあって多忙なはずなのに、すごいですね。
うーむ、頭が下がります。
Posted by 森 at 2008年07月11日 13:43
森さん、
ありゃりゃ、です。去年も、この歌を引用していましたね!
大した歌ではないので、2度も登場させてしまって恥ずかしいです。でも、今回の内容には、これが一番ぴったりだったものですから。
ご指摘ありがとうございました!!
しかし、前回のブログを読むと、アレグリアスが全然上達していないってことがよくわかりますね、トホホ……。
Posted by まつむらゆりこ at 2008年07月11日 14:06
リズムについて、とても興味深いお話ですね。
前半3拍子部分の「タラ・タ」と「タ・タラ」の違いを自分なりにイメージしてみたのですが^^
「タラ・タ」に手拍子を合わせてみると、いわゆる裏打ちになるのですね。
4拍子のリズムで例えるなら、「ズン・チャ・ズン・チャ」の「チャ」の部分にアクセントを置いて、手拍子をするといった裏打ちが、ポピュラーソングなどでは多く見られますね。
ご案内の「3・3・2・2・2」という、変則系の十二拍子の場合は、やはり前半の3拍子の3拍目で裏打ちをしてしまうと、後半の2拍子3回分のリズムがどうしても崩れやすくなってしまうのでしょうね。
そういうことからも、先生ご指摘3拍子の頭にアクセントを置くことで、全体のリズムが取りやすくなるのかもしれませんね。
私もメトロノームに合わせて「3・3・2・2・2」のそれぞれの頭に手拍子を入れてみた場合と、3拍子の3拍目と2拍子の裏に手拍子を入れた場合との実験をしてみましたが、やはり前者の方が自然と感じました。更に、3拍子は3拍目と、2拍子部分の1拍目にアクセントを取ることをしましたが、これはどうしてもズッコケてしまう状態になってしまいました。もしかしたら、ゆりこさんの不調の原因がこのあたりにあったのかもしれませんね。あっ、フラメンコについても私は全くの素人なので、的外れなコメントになってしまっていたら、ごめんなさい^^;
ただ、メトロノーム相手の手拍子での実験でしたが、こういう実験も楽しいなぁと感じました^^
Posted by KobaChan at 2008年07月12日 21:16
KobaChanさん、
いやー、いろいろ考えてくださって、ありがとうございます。
ホントのところ、問題の「タ・タラ」の部分、前後がすっごく複雑で12拍子がどこからどこまでかもわからないのです。
全体で覚えていて……(あ〜、だからちゃんと拍子がとれてないんですねぇ〜〜)。一度ちゃんと数えてみます!
Posted by まつむらゆりこ at 2008年07月12日 21:41
ゆりこ様
たびたび失礼します。
つた姫様から教えていただいたヘミオラという言葉を自分なりに調べてみました。
「3・3・2・2・2」というリズムを楽譜で表現した場合、八分音符が12個並んでいるのを前後半の6個づつに分けてありました。さらに前半が八分の六拍子、後半が四分の三拍子で書かれていました。八分の六拍子は三連譜2個分のリズムとしても表現されますね。そして四分の三拍子といえばワルツですね。
となると、フラメンコの「3・3・2・2・2」というリズムの中には、日本人が良く好む三連と、ワルツとの両方のリズムが連続的に繰り返されるということになるのでしょうか。
同じテンポの八分音符12個を、前後半でアクセントの位置を変えることで、3連とワルツを混在させられる・・・
これを身体で覚えられたら、楽しいでしょうねぇ。
ゆりこさん、ガンバです^^
Posted by KobaChan at 2008年07月13日 08:24
ものごとのはじまり、って何でも素敵ですものね。緊張して、期待して、ときめいて、嬉しくて。

恋みたい(笑)。
Posted by Lucy at 2008年07月13日 12:51
KobaChanさん、
度々のお励まし、ありがたいです!

Lucyさん、
そうなんですよねえ。なのに、フラメンコという最近の「恋人」ときたら、ちっともやさしくなくて、意地悪なんだもん。私はいつも無様な恰好をさらしています。
Posted by まつむらゆりこ at 2008年07月13日 13:28
こんばんは「情熱のフラメンコ短歌」過去までさかのぼって楽しく読んでおります。

「四十の手習い」もしかしたら先生ご自身も本格的に習い始めたのが遅かった方だったのかも、迫力と説得力がありました。
「かならずしも男性パートナーを必要としない」おかしくて、また考えさせられました。
そういえばよく見るフラメンコは
女性が単独で踊り、男はギターを
ひいているだけですね。
メリメの「カルメン」のなかでドン・ホセがギターの名手(作中ではマンドリンと表記されてる)といわれ、一曲披露する場面がありました。余談ですが、弾き終わったホセが暖炉の火を見つめる描写がとても印象にのこり、好きな場面です。


Posted by SEMIMARU at 2008年07月14日 20:51
SEMIMARUさん、
「情熱のフラメンコ短歌」、ずーっと書いていなくて、前回と同じ(しかも自分の)歌を引用するなんて、お恥ずかしい限りです。この1年、「情熱」を失ってたんですねえ。もう少し頑張ってみます。
 実際にフラメンコをご覧になったことがあるとは、素晴らしい! 暖炉の火を見つめるホセの場面というのも、なかなか!!
Posted by まつむらゆりこ at 2008年07月14日 22:24
Frammencoが、きつくなったときは、Tango、特にArgentina Tangoが宜しいよ!
私は、Por Una Cabezzaの曲が好きだなあ!昔、一回だけ東京の"タマオキ・ダンススクール"で170cmの女性と踊ったけど、Al Paccinoの方が格好いいですね。どこかで、背の高い人を見つけたら、それで踊りたいと思います。

Shall we dance?
Posted by ろんめる at 2009年03月16日 10:43
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。