2008年08月01日

銀河鉄道の夜

ginga.JPG

  東西線の夜に車輛をうつりゆくカムパネルラがさうしたやうに
                      栗原 寛


 毎日猛暑が続いているが、この歌を読んだ瞬間、ひいやりとした風を頬に受けたように感じた。ああ、カムパネルラ!
 夜の電車はたいてい、大勢の人が押し合いへし合いしながら乗っているものだ。そんな込み合う電車で「車輛をうつりゆく??」と思いながら読み進めると、下の句で一気に別世界へ連れてゆかれる。作者は車両を移っているうちに、東西線ではなくて銀河鉄道に乗り込んでしまうのである。
 「銀河鉄道の夜」のラストでジョバンニは、自分の前から不意に姿を消したカムパネルラが、川へ飛び込んで見つからないのだと聞かされる。カムパネルラはもう死んだのだ。でも、ジョバンニは信じられない。どこかの洲にでも着いているのではないかと思うのである。
 カムパネルラは、車両をちょっと移っただけだったのではないだろうか。生きている私たちも、旅立った人たちも、実際には隣り合わせの車両に乗っているようなものだ――。そんなことを考えさせられる。
 東京メトロ東西線は私にとって、十数年にわたって通勤に利用した、なじみの深い電車である。しかし、私ときたらラッシュ時の不愉快さや肉体的なつらさを嘆く歌しか作らなかった。この歌のように、別の世界がぱぁーっと開けるような歌がついぞ自分の中から湧いてこなかったことが残念でならない。
 東西線は、実は東京だけでなく、仙台や札幌、京都、大阪にもある路線名だ。いろいろな路線名の中から「東西線」という伸びやかな音とイメージを選んだのも、作者のセンスのよさを示していると思う。「南北線」だと何だか鶴屋南北を思い出してしまうし(私だけか?!)、「大江戸線」だと笑ってしまう。
 東京の地下鉄東西線の車両は、銀色の車体にブルーのラインが走っている。私はその色も連想したので、一首全体に漂う青みがかった雰囲気をより強く感じたのかもしれない。


☆朔日短歌会15周年記念合同歌集『歌集朔日』(朔日短歌会、2008年7月刊行)


posted by まつむらゆりこ at 00:01| Comment(16) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
啄木と賢治をらざるこの国の歴史わびしきただ思ふだに
Posted by 髭彦 at 2008年08月01日 00:31
髭彦さん、
啄木と賢治の組み合わせは意外です。
共通項は、清貧の中の抒情かなあ、と思いました。
Posted by まつむらゆりこ at 2008年08月01日 08:21
本当に素敵な歌!
私も乗り過ごしたときは別世界に寄り道したことにしようっと♪


でも、「西武池袋線」もだめね…(泣)。
Posted by もなママ at 2008年08月01日 08:22
もなママさん、
素敵な歌でしょう?
作者は20代の青年なんですよ♪
Posted by まつむらゆりこ at 2008年08月01日 08:45
こんばんは、東西線は私もよく利用します。
なぜか、不思議な路線です。

千葉県側はずっと高架で、都内に入ると地下にはいり、終点の中野でまた高架になる。
長い地下トンネルを出たところは、まったく違う所、まるで異界に旅立つ鉄道のようです。
また、快速に乗ると地下駅の南砂町駅を通過します。(東京メトロで地下駅を通過するのはここだけ) 暗いトンネルの中に明るい駅が浮かび、一瞬にして通過する。幻の駅のようです。「銀河鉄道」という連想は、このへんから出たのかも知れません。

PS 幼児体験ですが、開業直後の西船橋駅は、周りに商業施設はおろか、人家もろくになく、葦や芦の茂る湿地だらけだったような記憶があります、まさに蜃気楼のような駅でした。
Posted by SEMIMARU at 2008年08月01日 20:12
SEMIMARUさん、
東京メトロ東西線には、ご指摘の通りの不思議さがありますね。
南砂町が「幻の駅のよう」というのは、言われてみて気づきました。全く同感です!
昔の西船橋駅周辺の様子についても興味深く読みました。いろいろ教えてくださって、ありがとうございます。
Posted by まつむらゆりこ at 2008年08月01日 23:15
おはようございます。
5年ほど前になりますか・・・
東京への出張勤務の時、三ヶ月ほど、
毎日、茅場町から門前仲町まで
東西線を利用させていただきました^^
利用が一瞬すぎたのでしょうか、
残念ながら銀河鉄道を感じることはありませんでした^^;
Posted by KobaChan at 2008年08月02日 09:09
KobaChanさん、
いやいやいや、十数年利用しても全く銀河鉄道を感じなかった鈍感な人もいます(泣)。
どうぞ、この一首の涼しさを味わってください!
Posted by まつむらゆりこ at 2008年08月02日 09:35
ひんやりでなく、勿論冷んやりでもなく、ひいやりとした風〜〜
うーん!そうですよね。
感性の豊かさに、思わずひきこまれていきます♪
Posted by スマイル ママ at 2008年08月03日 09:43
スマイル ママさん、
今日も暑いですね!
この歌のような、人を気持ちよく涼しくさせる一首が作れたらなあ、と思います。
Posted by まつむらゆりこ at 2008年08月03日 11:44
東西線って、高田馬場とかありましたっけ?(静岡在住なので。)
このかたは、学生さんなのかな、と思いました。
もう、暑さ的にはヤバくて、精神が瀕死の状態ですね。
Posted by 森 at 2008年08月03日 12:50
森さん、
東西線は高田馬場も通っていますよ!
千葉も暑くて死にそうです(アイスノンを首筋に当てつつ、原稿書いてます〜〜)。
Posted by まつむらゆりこ at 2008年08月03日 16:01
こんにちわ。
いつも楽しく拝見しています。

この歌は、塾帰りの電車で、自分の心をもてあましていた高校生の頃を思い出しました。なんか、孤独だったんですよね〜(^^)

子育て世代、もうあんな時間に電車乗らないけど、今思うと孤独に自分と向き合える時間だったと懐かしく思うのでした!
Posted by あつこ at 2008年08月06日 11:51
あつこさん、
いつも読んでくださっているとのこと、とっても嬉しいです。
「自分の心をもてあましていた高校生のころ」と重ねて読んだというご感想を読み、車両を移った作者の孤独感を改めて深く感じました。よい読みをありがとうございます!
Posted by まつむらゆりこ at 2008年08月06日 12:12
東西線は数十年前の新婚時の路線。
住んでいた団地の海側に多くの空き地がありよくゴルフの練習をしていました。
最近のことですが、居眠りしていたところ、改札にきた車掌に起こされ「この路線は銀河鉄道です。この切符では乗れません」と強制的に途中下車させられました。切符を見ると「夢・志・勇気・実現」となっていました。不思議。
改札口をでる頃には「新宿」と・・・・。生還しました。
Posted by ひろし at 2008年08月06日 21:14
ひろしさん、
まあ、切符がなくて残念でしたね!
でも、あんまり早いうちにカムパネルラに誘われなくてよかったのかも……。今夜も星がきれいです。
Posted by まつむらゆりこ at 2008年08月06日 22:44
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