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2009年04月17日

春キャベツ

cabbage.JPG

  家事はシャドウ・ワークなれどもやはらかな春キャベツ切る
  この感触は               豊島ゆきこ


 誰からも評価されないシャドウ・ワークだけれど、やわらかな春のキャベツをさくさく切る、この快感って、わたし好きだなあ……。春キャベツのように瑞々しい、素直な歌である。
 ほんのちょっぴり、「シャドウ・ワーク」をする自分を卑下しているような気持ちが「なれども」に感じられるが、全体としてはキャベツを刻む幸福感が前面に出ている。
 手仕事の快というものを思う。ことことと煮物を火にかけている時間の豊かさ、毛糸をひと目ひと目編んでゆく単調な気持ちよさ、きびきびと雑巾がけをする爽快さ−−。
 「シャドウ・ワーク」というのは、古い経済学の考えで影に追いやられていた仕事、というくらいの捉え方でよいのかもしれない。報酬が支払われないからといって、それが何だろう。日々の大切な時間をお金に換算する方が、貧しいことである。子育ても家事も本当のところ、人まかせにはできない楽しく心豊かなことだと思う。
 ところで、キャベツを刻むシーンが印象的な小説といえば、乃南アサの『幸福な食卓』である(瀬尾まいこじゃありませんよ!)。これは彼女のデビュー作で、とても怖い心理サスペンスだ。キャベツが出てくるのは最後のクライマックスなのだが、キャベツを刻む快感と相まって怖さが倍増、という効果を狙ったのかもしれない。
 この歌の作者は、キャベツを刻む快感を本当に愛していて、歌集にはこんな歌もある。

  丸ごとのキャベツざくつと切るときにしぶき立つ霧明快に生きむ

☆豊島ゆきこ歌集『りんご療法』(砂子屋書房、2009年2月)

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posted by まつむらゆりこ at 09:28 | 働く女たちへ

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