2010年01月15日

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 弟がひとり居たなら呼び寄せておまえならどうすると訊くだろうきっと
                       永田 和宏


 親には感謝しきれないことばかりだが、なかでも弟の存在は大きな贈りもののように思っている。自分と気質や考え方の全く異なる同世代の人間が、家族のなかに一人でもいる経験というのは、実に得難いものだ。私は弟がいることで、本当にたくさんのことを学んだ。
 弟と私は六歳離れている。小さいころの私はかなり支配的な姉で、無理やりお人形遊びに付き合わせたり、親の見ていないところでいじめたりもした。そのくせ、参観日に母が弟を連れてくると、色が白くて私よりも顔立ちの整った弟を得意満面で引き連れ、友達に自慢した。そんな姉だったのに、おとなになってからの彼は何かと私をサポートし、心を配ってくれる。
 血液型や星座など占いの類は信じないが、異性のきょうだいの有無や、何人きょうだいの何番目といったことは、かなり性格に影響を及ぼすと考えている。もちろん、持って生まれた性格というものもあるだろうが、采配を振るいたがったり、何でも一人でやらなければ、と思ったりする私自身の傾向は、二人きょうだいの上の子であるところもだいぶ関与しているのではないかと思う。
 この歌の作者は、年譜によると妹さんが二人いる。「弟がひとり居たなら」というのは、何か妹たちには相談しにくい難しい問題を抱えている状況を示すのだろうか。架空の弟なのだが、「おまえならどうする」と話しかける言葉がとてもリアルで、あたたかい思いを抱かされる。幼いころから、しっかり者の兄として振る舞ってきた作者の、ちょっとした甘えというか願望が素直に詠われていて、心をひかれた。
 架空の弟というと、寺山修司の「間引かれしゆゑに一生欠席する学校地獄のおとうとの椅子」が思い出されるが、こちらは「学校地獄」という言葉が強すぎて、歌としてはあまり好きではない。
 姉と弟、兄と弟という組み合わせによっても、その関係はずいぶんと変わるだろう。姉と弟というのは、なかなか甘やかなよいものだと思う。最後に、私の大好きな姉弟の歌を一首。

  おとうとと左右に坐りて連弾のあのころひと日ゆつくり過ぎき
                        上村 典子


☆永田和宏歌集『日和』(砂子屋書房、2009年12月)
 上村典子歌集『開放弦』(砂子屋書房、2001年3月)

☆おしらせ 来週のブログ更新は仕事の都合で休みます。
posted by まつむらゆりこ at 00:00| Comment(12) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
毎週金曜日が待ち遠しいです・・・
今日は私の結社の永田主宰の一首が取り上げられてうれしいです。
Posted by 中村ケンジ at 2010年01月15日 08:40
 「弟」で思い出すのは、内藤やす子のデビュー曲「おとうとよ」です。あれをうたう時、4つ離れた弟の影がちらとよぎります。彼とはあまり良好な関係ではないからです。しかし、血のつながりは切ろうといっても切れるものではないから……。
Posted by 冷奴 at 2010年01月15日 12:25
中村ケンジさん、
いつも楽しみにしてくださっていること、何よりの励みです! 来週はお休みしますが、どうぞお許しくださいね。

冷奴さん、
兄と弟というのは、聖書の時代から難しいものなんですよねえ。小川洋子さんのエッセイに「兄弟ものの本に弱い」ということが書いてありました。しみじみ……。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年01月15日 14:04
しばらくぶりのコメントですがわたしも毎週楽しみにしています。

私も松村さんと同じく6歳下の弟がいて、やはり同じく子供のころはいじめたり支配したりしながらも、成長した彼にはずいぶんと支えられておりました。

上村典子さんの歌の光景はそれと同じ思い出があり親しみがわきます。
Posted by こざかな at 2010年01月15日 17:19
こざかなさん、
まあ、偶然ですね! 何だか嬉しいです、しかもいじめたり支配したり、という姉でいらしたことも。きょうだいって、いいものですね。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年01月15日 18:17
4つ違いの弟である息子は、姉の結婚式のために作った歌、 
♪ピアノを弾いて歌を歌ってた横顔を見てたから、僕もこうしてギターを〜〜〜♪と熱唱し、娘を始め参列者は感涙にむせびました。
今も仲の良い姉弟で親としてはとても嬉しいです。

遅くなりましたが「平塚らいてう賞」受賞めでとうございます!!
Posted by chiharu at 2010年01月16日 18:15
姉と弟との歌ですか…。いいですなぁ。兄と妹の歌はないのですかね?

うちの子供を見ていると、一昔前に流行った「クレヨンしんちゃん」と「じゃりんこチエ」の兄妹を見ているようで、面白いですよ〜!

親が充分にケア出来なくても、兄弟がいれば、二人でなんとかサバイバルしていくのでしょうなぁ。

うちの場合、弟が飲み屋関係で「うちの兄貴は勉強も遊びも運動も凄い!」っと云い振らしまくっているので、彼の紹介の飲み屋へは行きづらくなってしまいましたぞよ。
Posted by ErwinRommel at 2010年01月17日 10:00
chiharuさん、
お姉さんの結婚式で自作の歌をうたう弟くん……最高ですね! きょうだい仲良くすることも、親孝行のひとつなんだと気づきました。

Rommelさん、
きょうだいがいれば、なんとかサバイバルできる、というのは本当だと思います。兄と妹の歌、こんど探しておきますね。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年01月17日 11:48
素敵なご姉弟ですね。
弟さんを「大きな贈り物」だなんて!
そう思うゆりこさんも、思われる弟さんも、おふたりのご両親も、幸せですね!!

うちは兄がいるけどたぶんお互いそんなふうに思ったことはないなあ(苦笑)。むしろひとりっこに憧れたり。
でも、今改めて考えると、やっぱりいてくれてよかったと思います。兄もそう思ってくれるといいけど。かわいくない妹だからどうかなあ。。。(泣)
Posted by Lucy at 2010年01月17日 16:41
Lucyさん、
いえいえ、私は本当に専制的な姉で、もっと優しくて天使のような姉だったらなあ、と弟は思っていることでしょう。
小さい頃の私は兄さんが欲しかったけれど、弟の方では妹が欲しかったかもしれません!
Posted by まつむらゆりこ at 2010年01月17日 20:19
今日は。^^
お久し振りです。
ゆりこさんの弟M君か…懐かしいです。
小さい時の事覚えていますよ。
私と2人で遊んでると、M君が邪魔になったりして…困ったお姉さん達(私を含む)でしたね。
でも、可愛かったですね…。
私には、兄弟がいないので感覚が掴み辛いですね。
私は、お兄さんが欲しかったな〜。^^;
取りとめのない話しでスミマセンでした。
Posted by SACHI at 2010年01月23日 09:42
SACHIさん、
お久しぶりです!
Mくんもすっかりおじさんになりました。時には兄さんのように頼りがいのある存在です。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年01月27日 14:13
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