2010年03月05日

偶然と必然

石垣焼.JPG

出会いは偶然 偶然は必然 生まれる前から決まっていた風の
行方                光本 恵子


 先日、沖縄の石垣島へ行き、「石垣焼窯元」で素晴らしい木の葉天目の茶碗を見た。石垣焼は陶器とガラスを融合させた焼き物で、美しいブルーが特徴である。
http://www.ishigaki-yaki.com/
 「天目」は茶の湯に用いる茶碗の総称だが、黒い釉薬を用いた焼き物全般を指すことも多い。黒い釉面に瑠璃色の美しい星紋がいくつも浮かぶ曜変天目、同様に大小の銀白色の結晶が一面に出ている油滴天目など、いろいろな種類がある。いずれも焼きあがりは偶然に左右され、同じものは二つとできない。中でも木の葉天目は、本物の木の葉を残して焼きあげるもので、葉が釉薬と混じってしまって葉っぱの形がわからなくなったり、葉が焼けて残らなかったりすることがほとんどという。
 石垣焼は、焼成温度の異なる陶器とガラスを組み合わせており、ふつうの作品でも焼きあげるのが難しい。そこに木の葉が加わるので、成功する可能性は非常に低い。
 石垣焼窯元当主の金子晴彦さんは、3年がかりでガラスを融合させた木の葉天目に挑戦し、昨夏、世界で初めて成功した。それまでに焼いた失敗作は1200点に上るという。木の葉天目には、ケイ酸を多く含むムクやニレ、ケヤキなどの葉が適しているとされる。しかし、金子さんは石垣島の自然を表現するため、島に生えているクワの葉で試みた。
 この歌の「偶然は必然」というフレーズは、いろいろなことを考えさせる。科学研究の世界でも偶然による発見を「セレンディピティ」と呼んだりするが、それは決して出合い頭のような偶然ではなく、その人が日頃から注意深く経験と努力を重ねていたからこそ、つかみ取ることができた幸運なのだと思う。定型をゆったりとはみ出したリズムが、この歌の内容にうまく合っていて気持ちがいい。
 人との出会いも偶然である。その出会いを、どう豊かにしてゆくかは自分次第なのだろう。せっかくの出会いを、自分のわがままや気紛れで台なしにしてはもったいない。「必然」と思って相手を大事にしなければ、美しい関係は作れないのだ。
 金子さんの木の葉天目は「紺海木葉天目茶碗」と名付けられた。小さな茶碗のなかに南島の海と山が入り込んだ、素晴らしい一品である。

☆光本恵子歌集『自由の領域』(砂子屋書房、2007年8月)
posted by まつむらゆりこ at 00:00| Comment(12) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ほんとうにそのとおりですね。
「偶然が生まれる必然」ってあると思います。どんな「偶然」にも、必ずそこに至るまでの道が用意されているんですよね。
ゆりこさんと私の出会いもそうだといいな♪いえ、きっとそうなんだと思っています☆

ところで、この歌は不思議な感じのする歌ですね。どこで切ったらいいんですか?
Posted by もなママ at 2010年03月05日 09:38
もなママさん、
「そこに至るまでの道が用意されている」って、とても魅力的な考えですね。
この歌は五七五七七でなく、意味に従って「出会いは偶然/偶然は必然/生まれる前から/決まっていた/風の行方」と読むのがいいのだと思います。風通しのいい感じがしませんか?
Posted by まつむらゆりこ at 2010年03月05日 10:32
 このすばらしいお茶碗をみていると、松村さんが石垣島をベースキャンプにされるということが必然のような気がしてきます。科学に暗いもので知りませんでしたが
アフリカのセレンディピティ自然公園の語源もこれですか?ま、”天動説”に基づけばすべてが赤い糸のお導きになるのでしょうが。
Posted by 冷奴 at 2010年03月05日 11:09
冷奴さん、
世界遺産になっているタンザニアの国立公園はセレンゲティ公園です! でも、どちらも響きがいいですよね。
アフリカにも行ってみたいです〜〜。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年03月05日 11:21
 うろ覚えで大変失礼しました。また勉強になりました。どちらも響きがいいとはおやさしいコメントでありました。
Posted by 冷奴 at 2010年03月05日 12:01
何と美しい不思議な天目茶碗でしょう。
千二百分の一いや万分の一の確立でしか出来ない貴重な茶碗、これでお抹茶を飲んだらさぞ美味しいでしょう。いや手が震えて味がわからないかと思われます。これだけ作れば偶然は必然なのですね。
「風の行方」とても素敵な言葉ですね。
Posted by コビアン at 2010年03月05日 20:11
冷奴さん、
いえいえ、覚え間違いは私も多いのですよ。幻のセレンディピティ自然公園を想像してみるのも楽しいです。

コビアンさん、
そうなんです! 万分の一の確率だと私も思います。小さな窪みに海と山が入っている感じが何とも言えません。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年03月05日 21:52
石垣島行ったんですか〜うらやましいなぁ〜
きっと楽しかったんでしょうね〜
Posted by 中村ケンジ at 2010年03月05日 22:14
なんと 美しき 陶器と文でしょう...............むぅ〜.......。言葉無し。
即、「壁掛花器」を発注しました。来たら名は『偶必一会』としましょう。
部屋を壁を心をキレイにし、何を活けるか等、届くのを楽しみに新年度から大きく変わる身辺への贈り物にしましょう。
Posted by ひろし at 2010年03月06日 08:46
中村ケンジさん、
石垣島、いいですよぉ〜〜。
若者が遊べるところは海くらいしかありませんが、ともかく自然が素晴らしい!

ひろしさん、
おおお! 壁掛花器を注文なさったとは。素敵な名を付けられて花器も嬉しいでしょう。私は四角いペンダントを買いました。結婚式の日に身に付けると幸せになれるという、something blue を思い出します。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年03月06日 11:06
石垣焼は偶然というより、やはり作者の精進により完成されたと思いたいです。
私たちも、普段いくつもの偶然に出会いますが、それは頭の上を通り過ぎていくだけです。それをつかんで生かすためには、前向きに生きようとする意欲が必要だと思います。
Posted by SEMIMARU at 2010年03月09日 20:44
SEMIMARUさん、
「偶然」というひと言で括ってしまいたくなかったお気持ち、わかる気がします。私がその言葉で言い表したかったのは、作り手の意思さえ超えて存在する、一瞬一瞬の巡り合わせ、というようなことです。もちろん、作者の精進や意欲がないと、それをつかむことはできないと思います。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年03月09日 21:30
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