2010年04月23日

DSCN0004.JPG

 吉野山梢の花を見し日より心は身にも添はずなりにき
                      西行


 引っ越し先を目指して旅をしている。先日は奈良・吉野を訪れ、もう終わりがけの桜を見てきた。
 吉野を訪れるのは初めてだった。「千本桜」という言葉には歌で何度も出会っていたが、それが「上の千本」「中の千本」などと分かれていることは知らなかった。「奥千本」と呼ばれる奥まった山上は、一番遅く花が咲くところという。私が訪れたときにはもうだいぶ散っていたが、新緑のなかで咲く桜の美しさは何ともいえず、これもまたよいものだと思った。
 奥千本には西行庵というところがある。都を去った西行がしばらく暮らしたとされる場所で、案内板には吉野で詠まれた歌もいくつか記されている。上の歌は、そのうちの一首だ。
 枝の先端に咲く花は、空を恋うように、その先をさらに目指すように咲いている。その花を見ると、自分の心もまた穏やかでなくなってしまう、という歌だと思う。桜の歌は、一本の木や桜並木、山全体の桜などを詠ったものが多く、「梢の花」に着目したところが新鮮だ。西行は「心」と「身」について繰り返し詠っており、この歌でも二つを合致させる難しさが詠われているところに惹かれる。
 「身」という言葉は、英語の body に対応するだけではなく、もっと広く深い概念を含んでいる。この歌を読むと、日常的な働きをする慣性、常識のようなものも含んでいるような気がする。「心」は、感情や理想、最も本質的な思いなどであろうか。本当は、心と身が一致するのがしあわせなのだろうが、なかなかそうは行かないのが人生である。でも、それが面白いのかもしれない。
 満開の桜に囲まれると、少し息苦しく感じる。吉野の山道を歩き、だいぶ散ってしまった桜の美しさに何かほっとするような思いだった。そして、斎藤史の歌を思い出した。 

  老いてなほ艶といふべきものありや花は始めも終りもよろし

 
posted by まつむらゆりこ at 00:00| Comment(13) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 西行は、たくさんの桜の歌を詠みましたが、松村さんがおっしゃるように「梢の花」に着目したのは確かに新鮮ですね。そして、あまたある桜の歌の中からこの「梢の花」に着目した松村さんもさすがです。人それぞれに桜の思い出があるのも日本人ならでは。
・さまざまのこと思ひ出す桜かな(芭蕉)
美術館めぐりをしたりご友人と旧交を温めたりしながら移動していらっしゃる松村さんを思い浮かべています。そんな松村さんにビッグニュースが入りましたので皆様にご一報。「科学ジャーナリスト賞2010」に松村由利子さんの『31文字のなかの科学』が選ばれました!
詳しくはhttp://jastj.jp/?p=206をご参照ください。
おめでとうございます!!

Posted by ろこ at 2010年04月23日 01:34
私は桜満開の花道を、毎年なぜか仕事の絡みで歩いたり、車で通り抜けることが多い。
リーマンの頃は、場所取りをしたり、ビールを運んだりと、肉体作業の思い出が濃いかったが、今となっては、良い思い出だ。
私にとって上、中、奥千本という桜よりは、(まだ尻が青いのか?)満開の中にいる時が、心が和やかに、また向日葵のように高揚する自分を感じる。
でも、桜もはらはらと散っていく様は、まるで女性や歌人の皆様が歌う「儚なさ」を好む感情に共感してしまう。
もう私も、歳なのでしょうか…。
Posted by ErwinRommel at 2010年04月23日 07:31
ろこさん、
「梢の花」に人はいろいろな思いを抱くのでしょうね。
お祝いメッセージも、本当にありがとうございました。

Rommelさん、
満開の桜のエネルギーは独特のもの。心が和やかになったり昂揚したり、というのは桜からの贈り物でしょう。「儚さ」も満開もそれぞれいいものです!
Posted by まつむらゆりこ at 2010年04月23日 07:51
受賞おめでとうございます!!

関西にいたころ、「中千本」までは見に行きました。なつかしいな。

今年はお互い大台ですね(何回目かの)。
そろそろ「終わりもよろし」をめざします?

それともまだ「中千本」…?(笑)
Posted by もなママ at 2010年04月23日 09:54
 うむ、吉野山ですか、ゆうらり、ゆうらり南の島に移動ですね。こりゃ最高。旅の途中に受賞の朗報もあり。考えられうるベストのお引っ越しですね。道中の無事を念じております。
Posted by 冷奴 at 2010年04月23日 12:19
大きな賞おめでとうございます。早速の上京ですね。(笑)
3月末に東京から仙台に転勤になった時、井の頭公園の池一面に浮いた花びらを見終わり仙台は満開でした。それから行く先々で桜に出会い、八幡平では5月まで楽しめました。
西行さんの歌はゆりこさんの解説でよくわかりました。
Posted by コビアン at 2010年04月23日 17:07
もなママさん、
うーん、まだ「中千本」じゃないでしょうか? 花も人生も、いつもその時々でよいものなのだと思います。

冷奴さん、
ありがとうございます! ただいま松山・道後温泉に到着しました。連休前のお得プランを利用しております。

コビアンさん、
「行く先々で桜に出会う」なんて、本当に素敵な旅でしたね! 四国では今ツツジがきれいに咲いています。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年04月23日 18:26
受賞おめでとうございます!

西行というと

願はくは花の下にて春死なん
その如月の望月の頃

の一首が有名です。実際にこの時季になくなつたそうです。

今日は道後温泉? 詩歌・文学のゆかりの地を巡る旅は楽しそうですね。

  
Posted by SEMIMARU at 2010年04月23日 19:35
お疲れさまです。
吉野にいらしたんですね〜
私も何度も行きましたけど景色がキレイですよね〜
今は松山だそうで・・・スゴイ行動力ですね!!
沖縄到着までいくつの県を旅するか個人的には興味あります。
Posted by 中村ケンジ at 2010年04月23日 20:40
旅の途中なのですね^^
どうぞ気をつけて目的地に向かわれますように。
そういえば今日、出張の途中の駅で、
奈良のポスターをたくさん見ました。
旅はいいですねぇ^^
Posted by KobaChan at 2010年04月23日 21:21
SEMIMARUさん、
どうもありがとうございます!
西行の歌は、これからもっとたくさん読んで勉強したいと思っています。

中村ケンジさん、
琵琶湖を見に、草津の近くにも行きましたよ! 安土城には感激しました〜

KobaChanさん、
旅の安全を祈ってくださって嬉しいです。たっぷりした時間で心を耕したいと思います。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年04月23日 22:23
久々にブログを見て〜またまたビッグな受賞!

おめでとう☆☆☆

吉野の桜をいつも見たいと思いつつまだ実現は
していない。

Safe journey〜♪
Posted by ミヤ・チャップマン at 2010年04月23日 23:34
ミヤ・チャップマンさん、
喜んでくださり、本当にありがとうございます。旅に出て思うのは、自分がいかにものを知らないか、ということです! もっともっと見聞を広めたいです。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年04月24日 07:54
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。