エミリといふ名にあこがれし少女期あり紫陽花濡るる石段くだる
栗木 京子
名前というのは面白いもので、外国人の名であっても何となく抱くイメージがある。それは音の響きや、出会った文学作品などからの想像によるものなので、その国の人が抱くのとはまた違った感覚だろう。しかし、日本人は濁音を好まないが、バーバラやデイジーといった名のかわいさは、何となく分かる気がする。ブリジット・バルドーの愛称「べべ」などもなつかしく思い出す。
Emilyは感じのいい名前だ。一番初めに出会ったのは、モンゴメリの「可愛いエミリー」に始まる三部作だった。このシリーズは「赤毛のアン」シリーズと並ぶモンゴメリの代表作とされ、ファンも多い。結婚して家庭に収まってしまったアンに比べ、もの書きを目指し続けるエミリーは、著者自身が強く投影されているといわれている。この歌の作者も魅了されたのかもしれない。
しかし、米国の詩人、エミリ・ディキンソン、英国の作家、エミリ・ブロンテなどの可能性もある。早熟な少女であれば、ディキンソンの詩や「嵐が丘」を楽しんだだろうし、下の句の「紫陽花濡るる石段」はやや翳りを帯びている。いろいろな想像をさせて楽しい歌である。
階段の角にかくれて詩を書いたエミリーって女(ひと)お嫌いですか
杉ア 恒夫
こちらの「エミリー」は、おそらくディキンソンだろう。この歌でも名前がとても生きている。ナンシーだと明るくて階段には隠れない気がするし、デボラだと真面目すぎて詩は書かない感じがする(私のイメージ)。
日本語の「笑む」を思わせるからだろうか。最近「エミリ」「えみり」という名を見ることが多い。少女期の栗木さんはもしかすると、自分の名前の硬質なK音を嫌い、母音で始まる名前のやわらかさを羨ましく思ったのかもしれない。
☆栗木京子歌集『しらまゆみ』(本阿弥書店・2010年6月、2625円)
☆杉ア恒夫歌集『パン屋のパンセ』(六花書林・2010年4月、2100円)
この文章を読んで、ますます嬉しくなりました。
しかも写真が紫陽花というのがまた感激です。
6月生まれの「私の花」です(勝手に)(笑)。
「エミリー」はいい名ですよ!
全体にやわらかいけれど、「リ」のところで、きりっとした感じもあるし。お宅のエミリー嬢のイメージにぴったりです。
数日前息子が「沖縄」と大書した雑誌を手にぶらぶら下りてきました。聞けば今月末から潜りに行くとのこと。石垣は高いからな〜と言っていました。(苦笑)
あっ、いいなあ〜。
『しらまゆみ』はこれまでの歌集よりも古雅な詠いぶりになった気がしました。
コビアンさん、
名作は大人になってから読む方が楽しめるのでしょうね。私もなかなか再読できませんが、『嵐が丘』ぜひ!
おお、フォークナー。なつかしい!!
ピンク・フロイドの曲にもそんなタイトルのものが……ご多忙のところ、コメントありがとうございました。
名前から抱くイメージや、名前の響きのお話は、由利子さんのエッセイ「物語のはじまり」の「3恋する」の中に、詳しく書かれていますね。「K音の響き」とお伺いして、すぐに思い出し、エッセイのその個所を読み返しました^^
名前の響き・・・普段は意識することはありませんが、そういう中にも「物語のはじまり」があるのですね^^
わぁ、「物語のはじまり」を思い出してくださって、ありがとうございます! とても嬉しく読みました。
名前の響きって、その人に少なからず影響を与えると思うんですよねえ。
外国語表記やカタカナ表記は、なんとなく軽快で、耳目に心地よいですね。
今日の毎日歌壇、加藤治朗選の第一席に
あの人のからだの一部それぞれに
名前をつける 指はシュンくん
と、ありました。
加藤氏は「危うい感性」と評してましたが、
字で見るとかわいいです。
私の知っている「エミリ」「えみり」はそのままです。当て字をした例はみたことがありません。
加藤治郎選の歌、面白いですね。
石垣、いいなぁ〜・・・
行ってみたい。(^^)/
ずっと昔、若い頃与論島には行った事があるのですが・・。
私の名前もK音なんですが(笑)そのせいかわたしも憧れた名前がありまして・・・。
それは「ドロシー」です。うふふ。
大事な憧れのお名前を教えてくださって、ありがとうございます。「ドロシー」ですぐに思い出すのは「オズの魔法使い」です! かわいくてお茶目なイメージがあり、私も好きな名前です。アーサー・ランサムの「ツバメ号とアマゾン号」シリーズに出てくるドロシーも、本好きで愛らしい少女です。