2010年06月25日

ヤモリ

yamori.JPG

  ひそみゐる守宮(やーどぅー)は鋭(と)き声に啼き雨夜は匂ふよ
  青瓜のごと                渡 英子
 

 ヤモリは「家守」と同じ発音ということもあり、家を守ってくれる小動物として大事にされている。昆虫を食べることも、その理由の一つなのだろう。沖縄では「やーどぅー」とか「やーるー」と呼ばれているようだ。
 私はそれほどヤモリが苦手ではない。積極的に近づくほどではないが、姿を見かけたからといって奇声を発したりはしない。郵便受けにヤモリが棲みついたときも、「よかよか。ああたの方が、ここに先に住んどらっしゃったとよねえ」と突然、博多弁になって心につぶやき、決して動じなかった。まあ、郵便受けに手を差し入れるのは、毎回おっかなびっくりではあるのだが。
 しかし、書斎でヤモリに遭遇したときには、少なからず動揺した。近隣の人から「ヤモリはところかまわずフンをするし、卵を産みつけるから大変なのよ」と聞かされていたからである。ああ、お願いだから馬場あき子全集や塚本邦雄全集にだけは卵を産まないでくれえ……と、がっくりしてしまった。
 それでもなおヤモリが憎らしくならないのは、「やもりのやもちゃん」(写真)のおかげであろう。これは、福音館書店の月刊誌「母の友」(1996年10月号)の付録なのだが、自分で作る豆本シリーズのお話であった。付録のページを切り抜き、ちゃんと折って糊づけすると、全30ページの豆本のできあがり! 奥付もちゃんとあって「製本 『母の友』読者の皆さん」「乱丁・落丁もお取り替えいたしません」というのが可笑しくて、すごく気に入っていた。
 ストーリーは、次の通り。住むところを探しに旅に出たやもりのやもちゃんは、おもしろそうな家を見つける。その家にはたくさんの部屋があって、いろいろな住人がいるのだが、「へび好き」や「うそつき」など、今ひとつ気が合いそうにない。がっかりして出るやもちゃんに、家は「だれにもきっと ぴったりのばしょがあるものさ。あきらめないで さがしてごらん」という。やもちゃんは元気を取り戻し、再び歩き始める……。
 何というか、「めでたしめでたし」で終わらないのがよかった。居場所を見つけられずにさまよう「やもちゃん」が自分に重なったのかもしれない(とほほ)。
 沖縄のヤモリは、鳴き声が鋭いらしい。「らしい」というのは、私は本土でヤモリの鳴くのを聞いたことがないので、「キッキッキッキ」という石垣のヤモリが「鋭い」のかどうか判別できないのである。この歌の作者は「鋭き声」と表現しているので、たぶん聞き比べたのだろう。
 鳥のような声でヤモリが鳴く雨の夜、作者は何か生々しい存在感を闇に感じているのではないだろうか。「青瓜」のように匂っているのはヤモリではなく、南の島の濃い闇、湿度をたっぷり含んだ大気ではないかと思う。姿の見えないヤモリの存在を強く感じさせるのが、その闇や大気なのである。やもちゃんのことは置いといて、石垣島の自然をたっぷりと、こんなふうに詠えるように努力しなくちゃいけないな、と反省するのであった。
 
 ☆渡英子歌集『レキオ 琉球』(2005年8月、ながらみ書房)
posted by まつむらゆりこ at 02:14| Comment(9) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おおおおお・・・
たっぷりと自然を吸い込んでください。
Posted by morijiri at 2010年06月25日 08:28
ヤモリもイモリも区別がつきませんが、昔先輩が(家のおくさんはヤモリみたいに家にへばりついているのが好きだ)
主人と山登りしていると清流の中からとかげのようなものを捕まえてひっくり返してお腹が赤いからイモリだと言ったのを思いだします。
Posted by コビアン at 2010年06月25日 09:03
 14年前の付録「やもりのやもちゃん」を南の島までお持ちになったのには驚きました。郵便受けに住まわれるくらいはやむをえないですよね。
Posted by 冷奴 at 2010年06月25日 13:25
「居場所」は見つかったではありませんか♪(笑)

ヤモリはバリ島のホテルにいっぱいいましたが、日本でも見たことあります。うちの教室&文庫の初日に、なぜか部屋にいました。

以来、教室も文庫も7年間にぎわい続け、子どもの声が絶えることはありません。やっぱりやもちゃんは「家の守り神」です。

Posted by もなママ at 2010年06月25日 19:17
那覇のヤールーも鳴き声は相当スゴイですよ〜
はじめて聞いたらカルチャーショックを受けるかも・・・
Posted by 中村ケンジ at 2010年06月25日 19:50
こんばんは^^
ヤモリが苦手ではないというゆりこさんのお話をうかがいまして、
ゆりこさんが良く恐竜のお話もされることを思い出しました^^
ゆりこさんはもしかしたら爬虫類系が好きなのかもですね。
巳年の私です^^
Posted by KobaChan at 2010年06月25日 21:18
morijiriさん、
ありがとうございます。ただいま「かりん」全国大会のため那覇におります。

コビアンさん、
ヤモリのおなかは白いです! おうちにいるのがヤモリ、川辺にいるのがイモリ、というのが私の定義なんですが、正しいかな?

冷奴さん、
「やもりのやもちゃん」は、小さかった息子と楽しんだ大事な本なので……。

もなママさん、
なんと! 文庫にもやもちゃんが出没したとは。やっぱり、やもちゃんは大事にしなければ♪

中村ケンジさん、
ええ〜っ、じゃ石垣島のヤモリはおとなしいのかしらん。そんなにすごいとは思いませんが……。

KobaChanさん、
自分が爬虫類好きとは思いもしませんでしたが、そういえば友人たちからトカゲをかたどったブローチを贈られたことがありました!!

Posted by まつむらゆりこ at 2010年06月25日 21:30
ヤモリは都市部にもいます、とくに木造住宅が密集する住宅地には多いです。
 私が子どものころは、周囲は農村だったのですが、あまりヤモリは見かけませんでした。宅地化の進んだ今のほうがよく見ます。
意外とシティ派なのかも。
ヤモリは人間には無害で、虫を食べるのでむしろ有益と知ってから、彼らを見かけても、なるべくそっとしておいてます。
そうすると、仲間が増えるのか・・・
Posted by SEMIMARU at 2010年06月25日 21:43
SEMIMARUさん、
都市部に多いとは! 私の住んでいた千葉市では見かけませんでした。やもちゃん、各地で頑張っているんですね。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年06月25日 22:41
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