2010年07月02日

遠雷

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  遠雷のしばしは鳴りてゐたれども虹を形見におきて去りたり
             藤井 常世


 遠くに雷鳴が聞こえていたけれども、雷が近づくこともなく、雨が上がった窓の外を見ると、大自然の形見のような虹がかかっているではないか−−なんと言うか、ゆったりとした気分の歌である。雷鳴は遠く、日常を脅かすこともなかった。虹は美しい……「ふーん、よかったね!!」と、敵意にも似た気持ちを私が抱いているのは、「遠雷」によってただならぬ被害を受けたばかりだからである。
 先週、明け方に雷鳴を聞いた私は飛び起きた。近所の人から「雷は怖いよ。パソコンもプリンタも、みんなダメになっちゃったから。ゴロゴロ鳴り出したら、すぐコンセントを抜かなきゃダメ!」と聞かされていたからである。寝ぼけまなこで書斎へ行き、パソコンとその周辺すべてのコンセントを抜いて布団へ戻った。雷は二度ほど鳴ったが近づくこともなく、断続的に強い雨が降った後、雨は上がった。
 その後、買い物などの用事があったため数時間留守にして、帰宅してから機器のコンセントを差し込んだ。「さぁて、メールをチェックしなくちゃ」。ところが、わがパソコンは電源ボタンを押しても、うんともすんとも言わず、ランプも点灯しない。
 狐につままれたような気分でパソコンを修理に出してから、ノートパソコンにLANケーブルをつないだところ、これまたつながらない。通信業者に連絡して来てもらってわかったのは、モデムもルーターもダメになっていることであった。「ちゃんと電源を抜いたんですよ!」と悲鳴に近い声を上げた私に、業者は言った。「ああ〜、電話回線を通して電流が流れちゃうことがあるんですよ〜」
 調べたところ、落雷なんかではなく、遠くで雷が鳴っただけでも周辺に大きな電圧が発生し、電話線やTVアンテナ線などを通して過電流が流れて電子機器を故障させる「雷サージ」という現象が起こり得ることが判明した。つまり、すべてのコンセントは抜いたけれど、電話回線はそのままだったため、そこからモデム→ルーター→パソコン、とケーブルを通して異常な電流が入ってしまったらしい。モジュラージャックまで引き抜かなければならなかったのだ。脱力。
 パソコンにはアース線も付いているのだが、地上に雷が落ちたらアース線から電流が入ることもあるとのこと。全くもう、どうすりゃいいの!って感じである。ADSLモデムが、購入品ではなくレンタルだったのは不幸中の幸いであった。ルーターのメーカーに電話したところ、「ああ〜、保証期間内ですけど、自然災害ってことで保証の対象になるかどうか、ちょっとぉ〜〜」という対応だった。修理に出したパソコンはどうなることやら。
 畳の虫もヤモリも、もうどうでもよくなってきた。あまり意識していなかったけれど、自分は都市にばかり住んできたのだなあとしみじみ思う。自然というものは、とてつもなく強大な存在なのだ。あんなにかすかな雷鳴だったのに、雷というものは恐ろしいばかりのエネルギーを持っているのだ。何か打ちのめされたような気分である。
 こういうときに、脱力感たっぷりに「だからよぉ〜」と言えるようになれば、私も一人前の島の住民だが、まだそういう境地には至れないのであった。
 
☆藤井常世歌集『夜半楽』(角川書店、2006年8月)
posted by まつむらゆりこ at 00:29| Comment(13) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こうして伝説の大女になっていくわけですね。八重山は雨も雷も東京より「剥き出し」の感じがありますものね。
Posted by morijiri at 2010年07月02日 08:44
morijiriさん、
はぁ〜、なんか朝から疲れてます。インターネット環境が整わないと仕事にならない、っていうことがこたえますね。大女どころか、小心翼々とした小物であります。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年07月02日 09:44
これはこれは思いがけず痛いですね。南の楽園はその分目に見えないところで不自由もあるのですね。一度失敗すると今度はだいじょうぶですよ。
Posted by コビアン at 2010年07月02日 10:59
懐かしいADSL!!!

私もインターネット草創期で、ISDNから移った時には、ADSL8Mでさえ、早いと感じましたね。

やっぱり、どんなに世の中便利になっても(人間が怠惰になる?)、アナログを長く経験している世代だと、難なくクリアできるでしょ?(場所柄ちょい不便かもしれないけど(悲))

Posted by ErwinRommel at 2010年07月02日 11:54
そういえば、沖縄の電気屋さんには、必ず落雷対策のコンセント(?)が売っているって、先日テレビで見た記憶があります。
インターネットって、普段意識しないけど、
どれだけ自分が頼って生活しているか、本当に感謝ですね。
石垣の自然に負けずに、頑張ってください。
久々に書き込みしてしまいました。
Posted by kaorin at 2010年07月02日 12:42
 ご愁傷様というしかありませんね。インターネット環境さえあればどこでも仕事できるとはいえ、小生が会社に入った頃は、ファクスもなかったんだから……。パソコンやらメールだってなくたって生きていけますよ。拙宅にはまだパソコンがないのですが、別に痛痒は感じません。伝説の大女のmorijiri氏に触発されて、八重山は雨も嵐も都より剥きだしでくる南にしあれば。
Posted by 冷奴 at 2010年07月02日 13:23
コビアンさん、
お励まし、本当にうれしいです。がんばります。

Rommelさん、
島にも光ファイバーは来ているのですが、私の住んでいる地域が取り残されているというわけ。もっと光を!

kaorinさん、
お久しぶりです。
たった今、電器店で雷ガードのタップを買ってきたところです。そっかー、テレビでやってましたか。

冷奴さん、
いいえ! 南の島でも生活するためにはお金というものが要るので、仕事しなければいけなくて、それには電子機器類が要るのであります。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年07月02日 18:58
だからよ〜ってなつかしい言葉ですね〜。
本島だけかと思ったら八重山も言うんですね〜
知らなかったです。
Posted by 中村ケンジ    at 2010年07月02日 19:50
思わぬ落とし穴というか、最新のツールがトラブルとは、大自然の脅威は、すごいです。

 一番プリミティブな防護策は、雷シーズンは、電源も回線もふだんは抜いておいて、使うときだけつなぐ、というのがいいかもしれません。
Posted by SEMIMARU at 2010年07月02日 20:26
中村ケンジさん、
だからよ〜、って如何なる場合にも使えるんですよね! このニュアンスを会得すれば、あなたもオキナワン♪

SEMIMARUさん、
よきアドバイスをありがとうございます。今夜も雷情報をチェックして、電源を抜いてきたところです。はぁ〜〜。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年07月02日 21:43
今回の記事に書いてあるカタカナと英語のほとんどが意味不明に思えるママは、都市部でしか暮らせなさそうです。

…って、すごい矛盾だと思うのはママだけでしょうか。。。???

ちなみに「PK」もわかりませんでしたけどね…。
Posted by もなママ at 2010年07月03日 00:08
もなママさん、
あっ、カタカナが多くてすみません!
サージはsurge、押し寄せるとか、急騰、急増するという意味で、噴火の際の火砕流出、脳が損傷された際のカテコールアミンの大放出などを「サージ」という語で表したりします。ちょっと説明不足でした。ごめんなさい。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年07月03日 09:32
落雷の話題ですが、PCの電源コードを抜いても、モジュラージャックから線を抜いても、近場で落雷があった場合で外部から宅内に引き込むNTTの引き込み線自体が断線している場合があります。
場合はNTTのサービスに電話をすれば確認してくれます。只、自宅の電話が不通の時は携帯電話で対処しなければなりません。
 以上自分の経験からの報告です!
Posted by リュウチャンパパ at 2010年07月06日 10:30
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