2010年08月13日

アリ

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 日の当る机上を歩む蟻がゐてしばらくわれと蟻との時間
                  尾崎左永子


 私の目下の悩みは……と書き始めると、「また!?」と思われそうなのだが、次から次に新たな問題が生じるのだから仕方がない。現在、わが家で非常に活発な活動を展開しているのはアリである。
 アリという生物には、非常に勤勉なイメージがある。システマティックに巣をつくる知能に感心こそすれ、悪感情を抱くなんてことはなかった。
 ところが、最近の活動はあまりにも広範囲にわたっており、浴室や洗面所はもちろん、仕事部屋や畳の部屋にまで進出してくるのだから憎らしい。畳の部屋のチャタテムシは、先月ついに市販の燻蒸剤を買ってきて撲滅したのだが、代わってアリが登場したというわけだ。この部屋には、これまで一度だって食べ物を持ち込んだことはないので、私はかなり動揺した。
 相棒に報告すると「何かないか偵察に来たんじゃないのぉ〜」とのんびりした口調で言う。そうかもしれない。この島の自然は厳しい。ふつうに地面を歩きまわっていたのでは、とても食糧が足りないから、獲物の多そうな人間の家に侵入するのは理にかなっている。
 アリに関しては、かなり用心してきた。引っ越し前に読んだ本の中には、電話機にアリがたかった事例も報告されていたので、「これは気をつけねば!」と固く決意したのである。台所では生ごみを数分たりとも放置せずビニール袋に密封し、お菓子や乾物のたぐいも冷蔵庫に入れることにしている。仕事部屋や畳の部屋でものを食べるなどという危険行為は、決してしたことがなかったのに!
 集中して原稿を書いているときに、はっと気づくと腕をアリが這っている――という状況はあまり嬉しくない。この歌でも「机上」をアリが這っているようだが、作者は私と違って、とても穏やかな気持ちで見守っている。「しばらく」にそれが感じられるし、「われと蟻との時間」というように、一体感さえ抱いているのだ。
 まあ、大群ではないことがせめてもの慰めである。大群が押し寄せるような目的物はないはずなので、当然といえば当然で、一度に見かけるのはせいぜい4、5匹なのだ。しばらくは、この歌の作者に倣って、「蟻との時間」を楽しんでみようか。

☆尾崎左永子歌集『青孔雀』(砂子屋書房・2006年11月刊)
posted by まつむらゆりこ at 07:47| Comment(17) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 相棒の「偵察にきたのでは……」ののんびり発言には笑ってしまいました。ま、南の島なんだから、食われるわけじゃなし、アリぐらいえーじゃないかと申し上げておきます。東京はお盆で社内も閑散、それなのに義理固く毎週の”そらたん”お疲れ様です。
Posted by 冷奴 at 2010年08月13日 11:23
奮闘されている様子、目に浮かびます。
関東の「ありのすころり」なんかでは到底間に合いそうにないですからねえ
Posted by morijiri at 2010年08月13日 13:05
冷奴さん、
そうですねえ、ゴキブリに比べればアリはかわいいですものね。ゴキブリの巨大さについてはさんざん脅かされてきましたが、まだわが家には出没していません。

morijiriさん、
小動物との奮闘に比べれば、暑さなんて何でもありません。夜など涼しいんですよ!
Posted by まつむらゆりこ at 2010年08月13日 13:29
世間はお盆休みなのに記事更新ごくろうさまです。今度はアリ・・・一難去ってまた一難ですね〜
こないだ甲子園に興南の応援に行ったら後ろの席の人が八重山なまりだったな〜
普天間なまりとちょっと違って独特ですね〜
Posted by 中村ケンジ at 2010年08月13日 14:31
小さい頃はうちの庭にたくさんアリがいました。
アリの巣穴もたくさんありました。

ある日、穴という穴に朝顔の種を突っ込んで窒息させ、アリの全滅をはかりましたが、夜になってかわいそうになり、はげしく後悔しました。例の夢を見るようになったのは、このときのトラウマかも。

でも、次の日、庭でアリを見かけて、死ぬほど安心しました。

数日後、庭じゅうに朝顔の双葉が顔を出していました。
Posted by もなママ at 2010年08月13日 15:01
河野さんの訃報ニュースに接し残念に思いながら、由利子さんのブログにやってきました。

今、市立図書館で「31文字のなかの科学」を借りて読んでいます。 
私も草取りばかりしているので中々読み進まないのですが、とても面白い!
ブログもそうですが、解釈が素晴らしいです。

南国は動植物の力が強すぎて参りますよね。
どこにでもやって来る蟻には薬品を使わない主義の夫もさすがに、アリコロリ?みたいなのを使っていますよ。
今年はH・Fのバナナが豊作です!
Posted by chiharu at 2010年08月13日 16:48
中村ケンジさん、
「八重山なまり」しか身近で聞いていないので、本島しかも普天間あたりとの違いはまだ分かりません。早くマスターしたいです!

もなママさん、
「みどりのゆび」のような女の子だったとも言えるおはなし……なのか?? 朝顔の種で「全滅」させられると思うところがかわいいです。

chiharuさん、
拙著を楽しんで読んでくださっている由、とても嬉しいです。
河野裕子さんの訃報には、私も言葉にならない思いでいっぱいになりました。何か書きたいけれど、少し時間がかかると思います。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年08月13日 21:01
確かに、蟻!は気持ちに余裕がないとき、家事をしているときなんかは、ムカつきますよね〜。

でも、この詩の作者じゃないですが、気持ちのゆとり、上記以外のことをしているときに、可愛いとか、生きていることを感じれるとか、云々の感情を自分が持てる生活ができればよいなあ〜!っと思いまっせ。

ちなみに、私の実家では百足がたまにでていました{30年くらい前でしたけどね(笑)}

まあ、気を取り直して少しずつ土地に馴染んでいってくださいね!?
Posted by ErwinRommel at 2010年08月13日 21:34
まず、A3くらいの白紙に庭の見取り図(花壇や飛び石などを記入)を用意し、そこに蟻一匹づつの行動記録(軌跡と時刻と行為)を記入していくという自由研究を中二の夏休みにやりました。まる一日かけて、暑いさなか庭にしゃがみこんで5匹程徹底追跡したのですが、これは今思うとかなり画期的なものだったと思います。が、教師には余り評価されませんでした。
その記憶によりますと
1.蟻は穴から出て帰るまで100メートル程度は移動する
2.速度は時速換算で50〜60q/h
3.単独行が原則
4.殆んど「お仕事」と言えるほどの事はなく帰っていく
などが判りました。

こんな事がゆりこさんの蟻対策に役立てば幸いです…?!
Posted by マコトニイチャン at 2010年08月14日 00:11
子供の時お祭りでハッカ糖?を首から提げていて一口吸ったら飛び上がる程すっぱい思いをしました。何と蟻がいたのです。後で蟻酸と言う言葉を知りました。あの味は忘れられません(笑)
Posted by コビアン at 2010年08月14日 08:40
Rommelさん、
アリが可愛いと思えるようになったら、随分と成長した証拠なのでしょうね。気持ちにはゆとりがあるつもりだったのに…(泣)。

マコトニイチャンさん、
す、すばらしい!! それは何年生のころだったのでしょう。
「4」に深くうなずく思いでした。わが家のアリも散歩しに来たのかな(うーん、違うと思うけど)。

コビアンさん、
うわあ、それもすごい体験です! 
びっくりなさったことでしょう。
ハッカ糖を食べる度に思い出しちゃいますね。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年08月14日 08:47
訂正と追加です。

2.で移動速度を50〜60q/hと書いてしまいましたが単位はm/hです。

「お仕事」と言えるほどの事はほとんどしないのですが、移動経路には何か意味があるような気がしました。何かに導かれている(例えば臭い、フェロモン)のか、やみ雲に歩き回っているとは思えません。少なくとも5匹のうち3匹はきちんと穴に戻るところまで確認していますので、少なくとも何らかのルールによって移動していると思われます。人間だって原野で数十キロほっつき歩いて元の場所には戻れないだろうと思います。

Posted by マコトニイチャン at 2010年08月14日 09:42
生ゴミは庭に捨てて土をかけましょう。
アリはそっちに行きます。肥料にもなるし。
家の中にはありのすころりを置きます。
あとアリの進級経路がわかっていたら、その近辺にフマキラーかなんかを蒔いておく。
ゴキブリホイホイも弥縫策になるかと。
これでなんとかなると思います。
Posted by 重方 at 2010年08月14日 10:08
マコトニイチャンさん、
そうか! そんなに速いわけありませんでしたね。アリのフェロモンは、かなり情報伝達に役立っていると思われます。

重方さん、
ご懇切なアドバイス、ありがとうございます。しかし、庭に生ゴミを捨てるとすると、かなり深く掘らないとカラスがやってきてほじくるのです!! それは近隣の人にも迷惑をかけることになるので、化学物質に頼ることにいたしましょう。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年08月14日 13:23
蟻は大群だと不気味です。夏になるとよく蟻が行列で移動してますが。
一匹二匹とかだと愛嬌もあります。

引用歌、作者は佐藤佐太郎門下の人ですね、佐藤佐太郎も、ユーモアと哀感を感じる蟻の歌を詠んでます。

われのみの知るわびしさぞ坐りゐる
膝のほとりに蟻のうごくは

歌集「形影」より
Posted by SEMIMARU at 2010年08月16日 19:49
いろいろなことを周到に用意しつつ、
新たな生活の日々を迎えていらっしゃる様子。
現在、格闘されることも多いようですが、
近い将来、ご案内の歌から感じられるような、
何事にも穏やかに向かわれる由利子さんの、
本当に新しい生活の日々が訪れるような気がしました^^

ちなみに、うちにもたくさん蟻がいますww
Posted by KobaChan at 2010年08月16日 20:15
SEMIMARUさん、
佐太郎の蟻の歌、しみじみと読みました。ああ、佐太郎の作品をもっと読みたいな、読まなくちゃ、と思わされます。
よきコメントをどうもありがとうございました!


KobaChanさん、
いえいえ、「周到」からは程遠い生活です。
やっぱり昆虫は、地球上で最も繁栄している種ですものね。リスペクトしなければ…。
Posted by まつむらゆりこ at 2010年08月17日 18:30
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