
いちまいの葉書きを君に書くための旅かもしれぬ旅をつづける
俵 万智
楽しく本を読んでいるときにも誤植が気になってしまうのは、性格の悪さだろうか。はたまた前職の名残だろうか。
たぶん性格が悪いのだ。おまけに、数十回に一回ほど、出版社宛てに「既にお気づきかもしれませんが、この本の〇ページ〇行目に、こんな誤植がありました」と葉書を出す癖がある。
白水社のある本について誤植を指摘した際には、恐縮してしまった。非常に丁重な返信が届いたうえ、お礼(?)に隔月刊の「出版ダイジェスト・白水社の本棚」が毎号送られるようになったのである。数年間ありがたく読んできたが、あまりにも申しわけないと思い、今春引っ越したのを機に他社の情報も含めた「出版ダイジェスト」の定期購読を申し込んだ。
そして、今年7月。買ったばかりの岩波現代文庫『オノマトピア 擬音語大国にっぽん考』を読んでいた私は、「いかん、いかーん!」とペンに手を伸ばした。岡本かの子の「句集『欲身』」という箇所が許せなかったのである。
「歌集『浴身』」ではないでしょうか」という葉書を出してひと月ほど経ったころだろうか。一通の封書を受け取った。知らない人からである。「先日は誤植のご指摘ありがとうございました」……。なんと『オノマトピア』の著者、桜井順さんからの手紙だった。
ワープロの変換ミスだったことなどを詫びる文章の最後に、「拙著をご購入いただいたキッカケは何でしょうか?教えていただければ幸いです」とあったので、慌てて返信をしたためた。
調べてみると、桜井さんは有名なCM作曲家(「富士フイルム・お正月を写そう」「石丸電気の歌」など多数!)で、歌謡曲や子どものための歌も作曲していられる。返信の返信として送られてきた私家版CDは、俵万智歌集『チョコレート革命』の43首に曲をつけたもので、ピアノと女性ボーカルによる素晴らしい作品である。私はすっかり感激してしまった。
そして、再び桜井さんのことを調べてみると、「とんでったバナナ」「ツッピンとびうお」の作曲者であることが分かり、大きな衝撃を受けた。というのも、この2曲は幼稚園児だった私が、当時最も愛する歌だったのだ。今も歌えるし、名曲だと思う。
わが悪癖も時に思いもよらぬ出会いをもたらす。一枚の葉書から世界がこんなに広がり、幼年時代と現在が円環のようにつながるとは。
ひとつだけ言いわけしておくと、私が誤植を指摘するのは、その本がものすごくいいものであるとき、その出版社をとても信頼している場合に限られる。『オノマトピア』は、古事記の「コヲロコヲロ」から石川啄木の「たんたらたら」、三橋鷹女の「きしきし」まで、実に幅広く取り上げた楽しい一冊である。
☆俵万智『もうひとつの恋』(1989年5月、角川書店)
詩人や歌人の方というのは、無意識に言葉(日本語)を
大切にする習性があるのだと思いますよ(笑)
↑の俵万智さんの、この短歌はとても懐かしいです。
それまで縁遠かった「短歌」というものを、
こんな自分でも書けるかな?下手でも書いてみようか?
当時、そんなふうに感じたことを、ふと思い出しました。
読者の愛と信じて、これからも出版社へ葉書を送り続けます!(おいおい……)
tokoro-11さん、
取りようによってはイヤな習性ではないかと省みております。
俵さんの歌を懐かしんでくださって嬉しいです! この歌の「旅」は人生と読んでもいいのかもしれません。私も好きな一首です。
出たばかりの本だったら新しい版を出すときに訂正できるので、言ったほうが親切なのでしょうが。
はじめてそういうのを見つけたのは、子どもの頃持っていた某有名鉄道写真家のSL写真の本で「A線のB駅とC駅間はすでに電化されている」という記述が気になったので、別の本で調べてみると誤りであることがわかりました(BC間は2010年現在でも電化されてない)
作者の勘違いと思われますが、原稿とゲラはあっていたので、校閲などではわからなかったのでしょう。思い切ってお手紙でも出してみればよかったかなー?
私の作品に誤植があったら遠慮なくメールして下さい。
ちなみに「ビーチパーリィー」は普天間なまりなので正解です。本土の人に説明するのに大変だった。
ということは、貴女的には性格が「良い」ということですよ。
たぶん、由利子さんの「指摘」には、無意識の「相手への愛情」が入っているので、相手が良い反応をしてくれるのですよ。
私も、見た目と異なるところがあるようですが、心がけていることがあります。「心で思ったことを8割の感じでアウトプットする」ということ。
貴女に当てはめたら、具体的に指摘するという行動も、「イラッチー」の8割程度で行動に移しているのかもしれませんね?
SLの本の間違い、指摘してあげたら喜ばれたと思います。人間の記憶は頼りないものだということを、ものを書くようになってつくづく思います。私も出版社の校閲の方には本当にお世話になっています!
中村ケンジさん、
ビーチパーリィー(beach party)、知ってますよ〜。私も沖縄県人だもの、一応。
ご著書をどうもありがとうございました。感想はお手紙で!
Rommelさん、
愛情は形にして表現しないと相手に伝わりませんものね。特に男性は表に出さないので損をしていると思います。もっと感情を言葉や表情で表わしてほしいといつも(!)思っています。
先日は丁寧なお手紙ありがとうございました。
とーってもよくわかります。言葉を愛すればからこそ気づいたことを、時間と労力と通信費をかけて指摘するのですもの。その気持ちが通じない相手には言わないですよね。そしてそれが通じる著者や出版社は、必ずや由利子さんに感謝するにちがいありません☆
ところで、うちに可愛いハガキがたくさんあるから今度あげますね。お手紙ちょうだいね♪
官製はがきではないから切手はついていないけど…。
おお、「役職と名前」!
新聞社では「数字と固有名詞」でしたよ。
「会議のタイプ」という言葉にもしみじみした感慨を抱きました。タイプライター、私も打ってました〜
もなママさん、
いえいえ、少なからずお節介だとは思うのですが……。
可愛いハガキ、大好きです! またお便りします。
>誤植を指摘するのは、その本がものすごくいいものであるとき
に該当しないかな。
重方歌集は
トイレの花子
「出るぞ出るぞ」と
未だ出ぬ
あなたの歌集は、きっと「ものすごくいい本」になるに決まってます。
タイミング(当方の仕事の込み具合)さえ合えば、喜んでお手伝いします。