
子どもらと何話したか君が手に赤いインクのらくがきありて
奥山 恵
昨日、地元の小学校で子どもたちに話をする機会があった。読書月間を締めくくる集会で、「本って楽しいよ」と題して、いろいろな本を紹介してきた。子どもたちの親も参加しての集会だったので、ちょっと緊張した。
1年生から6年生まで14人の小さな学校である。何か訊ねると、すごく熱心に「はい!」「はい!」と手を上げてくれるのが、うれしくてたまらなかった。一番うれしかったのは、終わってから1人の女の子が「きょう、遊びに行っていい?」と話しかけてくれたことだ。「いいよ!」と返事したが、脇からその子のお母さんが慌てて「こんな嵐の日に…」とたしなめていらしたので、「お天気のいい日に、いつでもおいで」と言い直した。
ああ、「きょう、遊びに行っていい?」という言葉の、何とまぶしいことだろう。小学校時代を思い出すと、思い出されるのは遊んだ記憶ばかりだ。自分の家に来てもらうのも楽しかったが、友達の家に行って、それぞれの家に違った匂いがあること、おやつもさまざまであることを知るのも面白かった。
この歌には、「君はせんせい。初めての低学年担当。」という詞書が付いている。小学校教諭の「君」の手に何か書かれているのを見た作者が、学校での様子を想像した歌なのだ。子どもたちに慕われている若い男性教諭のやさしさと、彼を見守る新婚まもない妻の思いがこの上なくあたたかく表現されている。
駆け出し記者だったころ、初めて小学校の取材に行ったときのことは、とてもよく覚えている。「あっ、小学校の匂いがする!」と感じたのだ。それは十数年ぶりに嗅ぐ、何とも表現できない甘酸っぱいような匂いだった。
思い返せば、小学校の先生になりたい時期があった。いろいろあって新聞記者になったのだが、こんな形で子どもと関われるのは本当にしあわせなことだ。小学校の卒業文集に収められた私の作文「将来の夢」には、「本と子どもにかかわる仕事」と書かれている。思わず小学生の自分に「おまえが“子ども”だろう!」と突っ込みたくなるが、それはそれとして、会社を辞めて当時の夢を実現しつつあることに不思議な感慨を抱く。
この歌の作者は、高校教諭として勤めながら、長らく児童文学の評論を書いてきた人だ。今春、学校を辞め、10月初旬に児童書専門店「ハックルベリー・ブックス」(http://www.huckleberrybooks.jp/)を開いた。「ゼツボウという言葉世にあるなれど「ラ」をかさねればひとは歌える」という、何度読んでも胸がきゅっと詰まるような、いい歌を作る歌人でもある。「本と子どもにかかわる仕事」の仲間になれたことが、照れくさくもうれしいのであった。
☆奥山恵歌集『「ラ」をかさねれば』(1998年12月、雁書館)
松村さんの文章を読んでいて、
ふと、映画「二十四の瞳」を思い出しました。
田舎の子供達って、ほんと素朴ですよね。
田舎に限らず低学年の子どもは昔も今も変わらないのかな、とも思います。都会の子どもを相手に話した経験がないので。
ともかく、本当に楽しかったです!
我が家の子供達も松村さんの優しくて暖かな話し方が大好きでしたから。
石垣での生活とお仕事が上手にかみ合い、またその土地ならではの驚きなどもいつのまにか受け入れている素直さに拍手です。
ご無沙汰しています!
嬉しくコメントを読みました。
「遊びに行っていい?」と訊ねた女の子(小2)は5歳の弟くんと今日、来てくれました。いやー、激しく遊びました!!楽しかった。
奥田英朗の小説に出てくる結(ゆい)の一つかな?
都会の洗練された新風を八重山全体に吹き込んでください。お仕事忙しくなりそうですね(笑)
いえいえ、私も田舎者ですから。
会社員時代は自分と会社のためにしか働きませんでしたから、少しは地域に役立つことができれば、と思っています。
スゴイと思います。
これからもこのHPを見るのがますます楽しみです。
その日を今から心待ちにしています☆
今日のお昼過ぎには別の女の子が2人遊びに来ることになっています。やー、楽しいな。
ロールパン・ママさん、
小学校があまりに近いので、文庫の出番はあまりなさそうです。それより学校に協力して、本をあげたりした方がいいのかな、と考え始めています。ちょっと悩みます。
楽しそうに本を読む子ども・・・
その場面を想像しただけで、なんか幸せな気持ちになります^^
>小学校の卒業文集に収められた私の作文「将来の夢」には、「本と子どもにかかわる仕事」と書かれている。
私も小学校の卒業文集のなりたい職業というところに「エッセイスト」と書いた記憶があります。
卒業文集は残っていなくて、記憶だけなのですが・・・。
まだ小さな歩みですが、このごろ、その夢が実現しつつあるのかなあと思います。
まさに、どなたか書いていらしたけど、24の瞳だね、あ、28かあ!!
いいなあ、空気感♪
東京は台風、ど真ん中って感じ。
電車の中で本に顔を突っ込むようにして読んでいる子を見ると、昔の自分を見ているような気になったものです。
近藤かすみさん、
最初の夢というのは、自分の奥深くに眠っているものなのかもしれませんね。
こうづ☆つよこさん、
あっ、そうか、比喩的なものでなくて少人数ということで「二十四の瞳」と言われたのか(鈍っ)。
台風は東京へ接近中の由、どうぞお気をつけて。
そうなんですよ。このお嬢ちゃんは、金曜日に遊びに来てくださいました!「ブロックス」という盤ゲームに二人して熱中いたしました。
例をあげると、晩年ルーアンに隠棲していたフロベールを訪ね、よくお話を聞いていた男の子がいました、のちの推理作家ルブランです。「怪盗ルパン」に出てくるフランス各地の伝説は、フロベールから得た知識が多かったと思われます。
訪ねてくる子たちの中から、未来の作家が出るかもしれませんね。
モーリス・ルブランのエピソード、面白いですねえ!
私の家に遊びに来た子は、みんな家の中を走り回るのに夢中みたいですけれど、どうなるでしょう?
「遊びに行っていい?」ときいた小2の女の子と弟君が、遊びに来て、どんな遊びをしたのかしらと、知りたくなります。今、読んでいる『身体知』(内田樹・三砂ちづる)でも、親以外の大人がこどもに関わることの大切さを説いています。
短歌の作者である奥山恵さんの児童書専門店「ハックルベリー・ブックス」は柏駅近くにオープンしたとのこと。店のホームページの「第2期おすすめ本&雑貨ベスト10」の中で紹介されていた『十一月の扉』(高楼方子・作)は、『ムーミン谷の十一月』を彷彿させ、読んでみたいです。一度、休みの日にでも電車に乗って行ってみようと思います。
小2の女の子が気に入ったのは「ブロックス」という陣地をとってゆく盤ゲームです。アメリカの友人宅で遊んで相当盛り上がったので、帰ってきてから取り寄せましたが、フランス生まれのゲームとのこと。4人用だと家族で楽しめます!
ハックルベリー・ブックスへは、ぜひ足を運んでみてくださいね。
あと、たまたまですが、我が家にも「ブロックス」の2人用があります。1年くらい前に、妹のこどもたち(小学生)が遊びに来た時に出してみたら、けっこう夢中になっていました。
重ねてありがとうございます!けさのNHKニュースで、大江健三郎氏が少年時代に『ハックルベリー・フィンの冒険』を夢中になって読んだことをスピーチで披露したことを言っていて、面白く思いました。