2011年02月11日

卵料理

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  人間を産んでしまった悲しみよ卵料理はあたたかすぎる
                        
 子どものころ、母の本棚にあった石井好子の『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(暮しの手帖社)を読むのが楽しみでならなかった。食べたことのない、おいしそうなものがたくさん出てきて、胸がわくわくした。
 早川茉莉さんが編集したアンソロジー『玉子 ふわふわ』(ちくま文庫)には、石井さんの回想「東京の空の下オムレツのにおいは流れる」をはじめ、武田百合子、森茉莉、池波正太郎、東海林さだお、向田邦子といった、おいしいエッセイの妙手が卵料理について書いた文章が収められていて、楽しいことこの上ない。
 この歌は、私のごく初期のものだ。「理が勝っている」と評されることの多い私にしては、わけの分からなさがあって、当時はよいのか悪いのか判断できなかった。歌集の出版記念会のとき、素晴らしい喩の使い手、大滝和子さんがスピーチで、この歌を取り上げ「そうなんです、卵料理はあたたか過ぎるんです」と、妙に力説してくださったのがすごく嬉しかった。
 卵料理はやさしくて、あたたかくて、なつかしい。その半面、卵というものの生命感、それを食べることのかすかな罪悪感、残酷な感じ、奇妙なぐにゅぐにゅ感も抱かせる。そんなあれこれが入りこんだ歌は、私の心の奥底から湧いてきた不透明なものを湛えていて、愛着がある一首なのだった。

☆松村由利子歌集『薄荷色の朝に』(短歌研究社、1998年12月)


posted by まつむらゆりこ at 08:56| Comment(13) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
不思議な一首ですね。
下句が印象的です。
卵をテーマに作歌をするのはスゴイです。
Posted by 中村ケンジ at 2011年02月11日 10:11
中村ケンジさん、
いえいえ、卵の名歌は山のようにあるのでお恥ずかしい限り。ただいま出稼ぎ中ということもあり、自作を出してしまいました。
Posted by まつむらゆりこ at 2011年02月11日 12:06
上句から下句への転換が見事で
余計に「悲しみ」が浮き上がってくる、そんな印象を受けました。
Posted by tokoro-11 at 2011年02月11日 13:11
tokoro-11さん、
頭で作った歌ではないのが、よかったのかしら、と思います。歌って、本当に不思議です。
Posted by まつむらゆりこ at 2011年02月11日 14:15
 巨人大鵬卵焼きと白鵬がいうのに目を見張った私です。不可思議なおうたではありますが、坊やのいる詠み手のお若い頃のお歌とみれば、ちょっとなぁという気もしないでもない。あんまり詠み手の環境を考えてはいけないんでしょうが・・・。卵料理ってうれしいんだよね。3年ほど買わなかった卵パックを最近ではスーパーで買ったりするのです。
Posted by 冷奴 at 2011年02月11日 19:48
小説で卵を食べる場面で印象に残っているのが、大藪春彦の「野獣死すべし」で、主人公が朝食に茹で卵を10個も食べる(そんなに食べられるものか?)のと、池波正太郎の「仕掛人・藤枝梅安」で主人公が味噌汁に卵を落として、それをおかずに朝食を食べる、というところです。

いずれの作品も、その後「殺す」という行為があります。生命・誕生の象徴の卵と、殺しの対比を描いたものでしょうか。
Posted by SEMIMARU at 2011年02月11日 20:00
冷奴さん、
白鳳関の発言は、私も「すごいなぁ」と感服して聞いてました。歌は、作者の状況と別ですから、あまり御心配なく!

SEMIMARUさん、
おー、いいシーンですね。『玉子 ふわふわ』はエッセイのアンソロジーで、例外として小説の一部が一篇だけ入っています。
Posted by まつむらゆりこ at 2011年02月12日 00:24
この度はめんこさんにお会い出来てとてもうれしかったです。「島に暮らす」と「女もすなる〜」あまり見事なのでコピーして行ったらとても好評で足りなかったです。(笑)玉子は朝目玉焼きにしたり、お弁当の隅に入れたり栄養も豊富でいつも便利に使っています。庭でシャモを一羽放し飼いにしているのですが、とても美味しい玉子を産んでくれますが、きゃべつ、ウインナー、ピーナツが好きで餌代の方が高くついてしまいます。(苦笑)
Posted by コビアン at 2011年02月12日 10:53
コビアンさん、
先日は本当にありがとうございました。長い文章を楽しんで読んでくださった由、とても感激しております。
かわいがられているシャモの話、いいなぁとしみじみして読みました。ピーナツを食べるなんて!
Posted by まつむらゆりこ at 2011年02月12日 11:14
 玉子焼きもオムレツも大好きです。家族に作ってもらったこれらは、なお。自分ではスクランブル・エッグ(という名の炒め物)しか作りませんから(笑)

 それにしても、いろいろ感じさせる歌ですね。「産む」と「卵」ですか〜。
Posted by U-runner at 2011年02月12日 21:55
U-runnerさん、
おいしい卵料理の数々を思うと、卵アレルギーのある子どもたちと、そのご家族のつらさが思われてなりません。卵を食べるしあわせを改めて考えるのでした。
Posted by まつむらゆりこ at 2011年02月13日 12:50
卵料理のふわふわ幸せ感は、ぐりとぐらのカステラ作りの絵本でも有名ですね。
でも、うちも娘がアトピーで長らく卵は食べませんでした。最初に夫が赴任したのはクリスマスに教会員が手作りのケーキを作る教会で、ある年のクリスマスなど、シュークリームを積み上げてツリーに見立てたケーキだったので、パイ皮にサツマイモのペーストを包んだものを娘のに作ってシュークリームのツリーから少し離して置いたりして・・。
母乳を飲ませている時に、不安感から勝手に厳しい除去食をして、その後私自身は体調を悪くし、昨年二十歳になった娘は卵は食べられるようになったもののアトピー自体は完治していません。いったいこれまで何をやってきたのやら・・溜息ものです。

茶碗蒸し食べたいと言う夫のため卵液漉す二人居なれば
夕飯は簡単なもの二人分娘の笑顔遠くにあれば
娘が一人暮らしをするようになって、こんな駄歌を作ってみました。
Posted by 牧師の妻=良い香り at 2011年02月15日 11:15
牧師の妻さん、
卵のアレルギーがあると、小さい子は本当にかわいそうですね。第一、「ぐりとぐら」を読むのがつらい!
サツマイモのペースト入りの特製シュークリーム、きっとお嬢さんにとって温かい思い出です。アレルギーも病気も、誰のせいでもないのですから、どうぞお気になさらないよう…(なんて、牧師夫人に対して僭越な!)。
静かな二人の食事を詠われた歌、しみじみと読みました。どうぞ、またお寄せください。
Posted by まつむらゆりこ at 2011年02月15日 13:32
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