2011年02月18日

花の好きな男

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  遠出すれば必ず花を買う男年々歳々われがさつなり  
                
 一緒に暮らしている相棒は、花の好きな男である。これまでも車で遠出するたびに、花の種や鉢植えを買っては、朽ちかけたアパートの庭に嬉々としてそれを植えて育てていた。私の方は、どうも「みどりのゆび」にはほど遠く、どちらかと言うと枯らす名人かもしれない。
 先日も相棒はブーゲンビリアの鉢をたくさん買ってきて、ご満悦である。わが家は風の強いところに建っているので、雨が降ったり風が吹いたりするたびに、鉢やプランターを軒下に避難させたり、また庭に戻したりと大変そうだ。
 友人たちとの会話でこの人物が出てくるとき、私は照れくさくて長年「例の人」だとか「通い婚の人」とか話していたのだが、ついに友人たちが「それじゃ不便だよ、何かあだ名を付けよう」ということで意見が一致した。ちょうど私がフラメンコを熱心に習っていた時期でもあり、なぜかその場で「フェルディナンド」に決まってしまった。
 ところで、子どものころ読んだ絵本に『はなのすきなうし』がある。スペインに暮らす一頭の牛は花が大好きで、ほかの牛たちがマドリードの闘牛場で勇ましく戦うことを夢見ているのに、うっとりと花の香りをかいでいる……というお話だ。穏やかな気質の、この牛の名前が「フェルディナンド」というのを思い出し、あとで可笑しくなった。わが相棒はウシ年生まれであり、その意味でもなかなかよいネーミングだったということになる。
 あるとき彼に、「君ね、自分の知らないところで、フェルディナンドって呼ばれてるんだよ」と話すと、たいそう驚いている。露文出身の相棒は、ゴーゴリが大好きなのだが、『狂人日記』に、自分のことをスペイン国王「フェルディナンド8世」だと思いこむ下級官吏が出てくるというのだ。これには、私もびっくりした。
 「フェルディナンド」を巡る奇妙な偶然は、珍しい大輪の花のように思える。私は現実の花よりも、こういうものに惹かれてしまうのである。

☆松村由利子歌集『大女伝説』(2010年5月、短歌研究社)
posted by まつむらゆりこ at 09:52| Comment(17) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 う〜む、ぬかりや長助であった。「大女伝説」で花を買う男のおうたはみのがした。フェルディナンドねぇ。枝ものにようやく手を出した小生ですが、鉢物は枯れたときの土の処分が面倒で求めたことがありません。
Posted by 冷奴 at 2011年02月18日 13:20
フェルディナンドさんがうらやましか(#^.^#)
Posted by totoro at 2011年02月18日 17:25
お花、キレイですね〜
私はお花を見ながら詩&短歌を創作するのが好きで休日は植物園などに行ったりします。
Posted by 中村ケンジ at 2011年02月18日 21:33
冷奴さん、
花が好き、というのはマメ、真面目だということなんですかねえ。つくづく自分がアバウトで乱暴な女子であることを感じます。

totoroさん、
いやぁ、そんなこと……(汗)。

中村ケンジさん、
石垣島は一年中、いろいろな花が咲いているところなんですよねえ。遊びにいらしてください!
Posted by まつむらゆりこ at 2011年02月18日 22:32
今日は久しぶりにお腹を抱えて笑いました。(^^)v
Posted by けんじくん at 2011年02月18日 22:44
けんじくんさん、
文章で笑ってもらうのって、最高です!
Posted by まつむらゆりこ at 2011年02月19日 09:47
来た〜☆
ついに来た!やっと出ましたね、フェルディーネタ。満を持して、花しょって♪長らくお待ちしておりました。もなママ、今ガッツポーズでこの記事を読んでおります。

太郎さん亡き今、このネーミングの現場に居合わせた最後の生き証人(二人しかいなかったけど)として、私もひとこと残させていただきます。「フェルディナンド」という名前を最初に口にしたのは太郎さんで、その瞬間食いついたのが由利さんでした。ほかの候補は忘れました。フェルディが強烈すぎて。

思えば、「フェルディナンド」といい「まだむ」といい、太郎さんは名づけの名手でありました。蛇足ながら、太郎さんのもとで修行を積んだもなママにも「ふつこ」というヒット作があります。「キルディーくん」は太郎さんとの合作です。由利さんにウケまくったのを覚えています。おなか抱えて笑ってたよね(いまどき)。
由利さんが自らに命名した「めんこ」も秀逸です。「ルーシー」「ハイジ」はうちの長女の作ですけど、これも結構気に入っています。

そもそもそうやって呼び合おうという発想自体、『赤毛のアン』の「歓喜の白路」「輝く湖水」にインスパイアされた少女時代へのノスタルジーから始まったんですよね〜。トシがばれるなー。でもカントリーガール魂は健在ですよね。お互い○○路の声を聞いちゃったけど。
レモンまでの明大脇の道に名前をつけないままだったのが残念ね。今からでも考えようか。

それにしてもフェルディナンド…はなのすきなうし…

ツボにはまりまくりました。爆笑!そして喝采!!!☆
Posted by もなママ at 2011年02月19日 10:23
先日はありがとう。楽しく、あっという間の時間でした。フェルディナンドのほんのわずかな一面がお話から垣間見れたような…。花がスキなんて、優しい方よね〜♪
お店計画進めるつもり!順調だったら、逆に、すぐには、そちらに行けなくなるかも〜
Posted by つよこ at 2011年02月19日 11:33
もなママさん、
名づけ親の1人であるあなたからのコメント、有り難く読みました〜。太郎さんにゴーゴリのこと、お伝えできずじまいだったのが悔やまれてなりません。
ともあれ、「フェルディナンド」は永遠です!

つよこさん、
島にいらっしゃるのは、いつでも♪
一番よいときに、ゆったりした気持ちでいらしてくださいね。
Posted by まつむらゆりこ at 2011年02月19日 16:15
我が亭主も花屋の前を素通り出来ない人で安価な鉢植えを買っては楽しんでいました。ある時昼休みに植木市で売っていたと頭だけ芽の出た小さな鉢をかかえ「これ幻のヒマラヤの青い芥子」清水の舞台から飛び降りる気持ちで買ってきたと言い。その後見事に咲きました。懐かしい思い出のひとこまです。
Posted by コビアン at 2011年02月19日 21:43
コビアンさん、
素敵なご主人さまですね。
花を愛する人は、美しいものを愛する人だと思います。よき思い出を教えてくださって、本当にありがとうございました。
Posted by まつむらゆりこ at 2011年02月20日 09:15
『大女伝説』をまたじっくりと拝読してみます。
フェルディナンド様のことが、いろいろとわかるかも^^
Posted by KobaChan at 2011年02月20日 10:14
この短歌、私も歌集では見落としておりました。その前の「カワセミ見つける動体視力」は記憶にありますのに。
規制の枠にはめなくても続いていく関係って素敵ですね。憧れます。

そう言えば、『大女伝説』を又開いてみましたら、卵の短歌がありましたね。
信仰という卵美しその殻はいと脆くして天上の青
初めに拝見した時は最初から読んでいったにも関わらず気付いていませんでしたが・・。
美味しそうな卵料理を見て、アレルギーの子供に思いを馳せる感性、素晴らしいですね。うれしくなって、長々コメントしてしまった私でした。

ところで私もブログを作りました。まだ、俳句を二つだけしか載せていませんが、よろしければご覧になってみてください。
Posted by 牧師の妻=良い香り at 2011年02月20日 13:28
相棒さん、丑年ですか、もしかしたら辛丑かな?
「フェルディナンド」の由来、とても楽しいですね。
「はなのすきなうし」はスペイン内戦の頃にできた童話というのを知りました。第二次大戦前夜です。なぜかとても考えさせられました。
Posted by SEMIMARU at 2011年02月20日 14:24
KobaChanさん、
いえ、もう、そのまま……(焦)想像の恋あり、めいっぱいの脚色あり、ですので!

牧師の妻さん、
いつもコメントありがとうございます。
ブログ「ナラティヴ ひとり語り」も拝見しました。心の落ち着くブログだなぁ、と思いました。

SEMIMARUさん、
相棒が、どの丑かは内緒です!
「はなのすきなうし」は、声高ではないけれど、やっぱり戦争を意識したメッセージが込められているかな、と思います。
Posted by まつむらゆりこ at 2011年02月20日 18:27
お忙しい中、拙ブログを見て下さり、ありがとうございました。

『短歌研究3月号』「春はあけぼの〜」拝見しました。
『ハムレット』を背景に詠まれた短歌でしょうか?でも、「バウムクーヘンかなしき年輪」や「スープ鍋」の歌からはグリム童話も連想します。
物語が背景に広がっている感じで、どれも面白くて好きですが、最後の「恋人よ物語りせよ」が、一等好きです。

昔なら遠い遠い存在だった本物の歌人の方に、こんな風に思いを伝えることができるなんて、すごい時代に生きているなぁと改めて思います。
Posted by よいかおり at 2011年02月23日 16:40
よいかおりさん、
「短歌研究」の歌を見てくださった由、ありがとうございます。一連すべてが同じテーマではないので、一首一首お楽しみいただければ幸いです。
私自身は最後の一首、それからハムレットの父王毒殺をアレンジした一首が気に入っています。
Posted by まつむらゆりこ at 2011年02月23日 18:20
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