2011年02月25日

春の海

0225春の海.jpg

  春の海あたたかげにも膨らみて寄るしら波は笑ふがごとき
                               窪田 空穂


 南島には夏と冬しかない、という人もいるが、空の色や光線の具合に春や秋を感じることはある。そして、それぞれの時期にしか採れない自然の恵みは、何よりも季節を感じさせてくれる。石垣島の春の場合は、アーサ(アオサ)である。
 先日、島の知人から「アーサ採りに行かない?」と誘われ、締め切りを山ほど抱えているにもかかわらず、近くの湾まで一緒に出かけた。なにしろ、旅行者として島を訪れていたころから、ずっと気になっていたのが、潮の引いた湾で何かを拾っている人たちの姿だったのだ。相棒と「なに拾ってるんだろう」「私たちも引っ越してきたら拾いに行こうね!」と話していたので、このチャンスを逃すのは惜しかった。
 長靴を履いて、つばの広い帽子をかぶり、ざるを持ったら出発だ。干潮時の湾は、ずいぶん遠くまで歩いてゆける。きれいなアーサの緑は、春そのものといった感じがする。岩に付いている生乾きのものは、ぺりぺりと剝がすことができるのが面白い。窪みにたまった海水の中にゆらゆらしているものの方が、採るのが簡単で砂などが付きにくい。アーサを採りながら、暖かくてやさしい風に吹かれていると、本当にゆったりした心もちになった(締め切りのことは少なからず気がかりだけど……)。
 この歌を読み、「春の海」というものをこれまで知らなかったと思う。「膨らみて寄るしら波」が実感できるほど、海を眺めることはなかった。そもそも、海そのものを知らなかった。ここに暮らすようになり、湾のそばを何度も通っているうちに自然に干潮、満潮の時刻が分かってきた。海の色も日々違っていて、いつも新しい。
 アーサは春先にしか採れない。海からの贈りものだなぁ、としみじみ思う。この贈りものがずっとずっと届くように、海を守らないといけないという気にもさせられた。
 採ってきたアーサは、乾燥させて砂粒や貝殻のかけらを除き、小分けにして冷凍した。残りは冷蔵して、おつゆやてんぷらに。最高の春の味わいである。

 ☆窪田空穂歌集『木草と共に』(1964年10月、春秋社)
posted by まつむらゆりこ at 10:46| Comment(9) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 アーサは朝、取ったりして……。こうして自分が採取したのんを、調理して食卓に乗せるなんざぁこたえられないねぇ。春の息吹というのかしらん。そういえば、遠浅の海に久しく入っていないなぁ。
Posted by 冷奴 at 2011年02月25日 11:35
冷奴さん、
アーサを採りに行く湾は、朝は満潮なのでお昼過ぎでないと(笑)。
冷凍しておきますので、いつでも遊びにいらしてください。
Posted by まつむらゆりこ at 2011年02月25日 13:21
もう春なんですか?

・・・まだ2月ですよぉ。。。
Posted by もなママ at 2011年02月25日 17:07
謙虚に自然に逆らわないで
生きることの素晴らしさを、
上記の歌からしみじみ感じますね。
いい歌だなあ...。
Posted by tokoro-11 at 2011年02月25日 17:13
アーサ…なつかしいですね〜
子どもの頃、海に取りに行ったものです。
おつゆも天ぷらも最高のごちそうです。

もしかしたらもずくもとれるかもしれないですよ。
Posted by 中村ケンジ at 2011年02月25日 21:30
もなママさん、
春ですね!(きっぱり)陽射しが変わってきました。この時期、夏より好きだなぁ。

tokoro-11さん、
しらべがゆったりしていて、本当にいいですね。頭で作った歌はダメだよ、って言われているような気持ちになります。

中村ケンジさん、
おお、やはり子ども時代に採りに行きましたか。もずくも少し見つけて、その場で食べちゃいました。
Posted by まつむらゆりこ at 2011年02月25日 21:42
あれだけ海辺に行っているのに春先に通ることがほとんどない。。。そのような恵みもあるんですね?

私は菜の花畑へ出かけて、ビール煮にして春を感じたいなぁって想いつつ、日々の業にいそしんでいますよw
Posted by ErwinRommel at 2011年02月26日 11:30
海で何かを採ると言うのは何て楽しい事でしょう。海岸をドライブしていると、流れ着いた海苔拾いをしていたので、私たちも少し拾って、きれいに洗い、ざるそば用のせいろで干したら、分厚い海苔ができました。(美味とは言えませんでした)(笑)
四国八十八箇所巡りで、店先に天草が干してあったので、一袋買い近くの岩場で同じものを見つけて、家でところてんを作っては食べました。(これは美味しかったです)
Posted by コビアン at 2011年02月26日 11:47
Rommelさん、
石垣島でも、洗ったり異物を取り除いたりする面倒を嫌い、アーサを採る人は減っているそうです。春を感じることができて楽しいのにな、と思います。

コビアンさん、
楽しい中で、「ああ、海を汚しちゃいけないな」という思いがぐんと強まりました。分厚い海苔を作るのも楽しそうです!
Posted by まつむらゆりこ at 2011年02月28日 08:56
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