2011年04月15日

テッポウユリ

0415lily.jpg

朝光(あさかげ)のなかに蕾をひらきたり百合は世界の四隅にむきて
                           小林 幸子


 石垣島に引っ越してくるとき、一番楽しみにしていた季節がやってきた。わが家からほど近い御神崎(うがんざき)という灯台のある岬に、テッポウユリが咲くからである。
 引っ越したのは昨年4月30日で、既にユリは終わっていた。夏以外の季節に何度か島を訪れたが、ユリの咲く季節だけは逃していたので、今年こそは!と楽しみにしていた。
 かつては野生のユリが咲き乱れていたそうだが、イノシシに球根を食べられたりして、減ってしまったという。それでも、けさ行ってみるとあちこちに咲いていて、すっかり嬉しくなった。
 御神崎は景勝地として知られるスポットで、小さな灯台や断崖絶壁の下に広がる青い海が、とても美しい。わが家から車で5分ほどのところなので、友達が本土から遊びに来ると、必ずここへ連れてゆくことにしている。断崖に当たって波が砕ける様子を見ると、みな決まってTVドラマの真似をして、がっくりと膝を突き「わたしがやりました!」という台詞を口にするので可笑しくてならない。
 この歌は、「世界の四隅」に向く、という捉え方に、はっとさせられる。少しうつむき加減に咲くユリは、思慮深く「四隅」を見つめているようだ。中心でなく「四隅」というのは、有限な世界であることを指すのだろうか。私たちも世界の隅を静かに見つめ、大切なものについて考えを深めないといけないのではないか、と思わされる一首である。

 ☆小林幸子歌集『シラクーサ』(ながらみ書房、2004年8月)
posted by まつむらゆりこ at 14:14| Comment(13) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
テッポウユリ…キレイですね〜

私も今を大切に生きようと思った。
Posted by 中村ケンジ at 2011年04月15日 20:52
「てっぽうゆり」とは、威勢のいい名前のユリですね。
まるで松村さんみたいです。
ところで、石垣島ではもう桜の季節は終わったのですか?
Posted by けんじくん at 2011年04月16日 01:56
 う〜む、由利子さんの百合ではありませんか。私の好みだと寅さんのリリーということになりますが……。しかしこのテッポウユリは可憐でよいですね。
Posted by 冷奴 at 2011年04月16日 04:02
「あさかげの」と始まるので、古風な感じの短歌かと思ったら、「世界の四隅」という言葉。おもしろいですね。
「世界の四隅」という言葉に広がりを感じました。百合の目の地点から四隅までの広がりを。大きな世界のまん中で、小さな四茎の百合がすっと立って世界をじっと見守っているような・・。

まつむらさんに教えていただいて知った短歌がたくさんあります。この世の中に、いったいどれくらいの数の短歌が詠まれているのだろうと思います。
Posted by よいかおり at 2011年04月16日 09:29
いつも楽しんで読ましていただいてます。
松村さんは、せっかく石垣島にいらしているので、うちなーくちか島言葉を覚えるといいと思います。
例えば、鉄砲百合は?島ではもっといい言葉で、言っていると思うのですが、
Posted by 005 at 2011年04月16日 11:09
中村ケンジさん、
同感です!

けんじくんさん、
石垣島にソメイヨシノはなく、緋寒桜はもう終わりました。今年はソメイヨシノのお花見はなしで終わっちゃいました!

冷奴さん、
いやー、「ユリ」というのは慎ましげで、きれいな花で、かくありたし、と思えども…というところです。

よいかおりさん、
ああ、とても丁寧な読みをしてくださってありがとうございます。まさにその通りです!古風な感じと「世界」との組み合わせが、すごく効果的だと思います。

005さん、
アドバイスありがとうございます。うちなーぐちを少しずつ覚えているところですが、テッポウユリについては迂闊でした!!調べてみますね。これからもどうぞよろしくお願いします。
Posted by まつむらゆりこ at 2011年04月16日 20:46
テッポウユリ野生で群生しているのはさぞ見事でしょう。香りまで伝わってきそうです。
Posted by コビアン at 2011年04月17日 00:57
断崖絶壁、サスペンスの定番ですね。震災以来、ずっと関係番組ばかりでしたが、少しづつ以前の状態にもどり、サスペンスも放映されるようになりました。
「断崖絶壁」は逃げ場がない、ということの象徴といいます。一見平穏な生活をしている私たちも、もしかしたら断崖と背中合わせかも、と考えてしまいます。

今日の毎日歌壇読みました、葛原妙子賞おめでとうございます。
ますますのご活躍を期待しております。
Posted by SEMIMARU at 2011年04月17日 10:17
コビアンさん、
「群生」にはちょっと足りないかな、という感じであちこちに咲いているのですが、とてもきれいですよ!ぜひ一度いらしてください。

SEMIMARUさん、
私たちみんなが「断崖と背中合わせかも」というご指摘には、深々とうなずく思いです。今まで断崖の下に荒々しく波が砕け散る様子を見て見ぬふりをしてきたのかもしれません。
受賞のことを喜んでくださり、本当にありがとうございます。これからも頑張ります。
Posted by まつむらゆりこ at 2011年04月17日 17:44
「大女伝説」葛原妙子賞!めでたい。めでたい。松村さんもいまや中堅歌人になられたんですね。受賞作のタイトルからはちょっと前に筑摩文庫に入っていた伝奇SFマンガ「山の音」(とりみき)を連想します。
Posted by おやくすみん at 2011年04月18日 02:49
おやくすみんさん、
どうもありがとうございます。いやいや「中堅歌人」なんて言えない者であります、さらに勉強を重ねなければ…。伝奇SFマンガを連想してくださったのが嬉しいのでした。
Posted by まつむらゆりこ at 2011年04月18日 07:36
「わたしがやりました」って…!(爆)

そこに「東映」って浮かばないの?
Posted by もなママ at 2011年04月22日 23:06
もなママさん、
こちらにいらしたら、ちゃーんとお連れします。
そして「本当のことを言うんだ」って促してあげますから。ざっぱ〜ん!
Posted by まつむらゆりこ at 2011年04月24日 22:09
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