子供らの歩幅に合わせて歩く道こんな時間があといくらある
前田 康子
子育て中、特に手のかかる時期には、早く子供が大きくならないかと思う。しかし、子供は思いのほか早く育つ。抜け殻のようにいくつもいくつも服が小さくなり、いつの間にか手の届かないところへ行ってしまう。
疲れたときや荷物の多いときに「抱っこ、抱っこ」とせがまれるのもたいへんだが、「ジブンであるく!」と宣言されるのも時としてしんどい。歩幅が小さいからだ。私にも2歳くらいの息子の歩調に合わせきれずに、「もぉ〜、早く歩いてよ〜〜」とうんざりしてしまった経験がある。けれども、その小さな一歩一歩の何となつかしいことか。あの一歩ずつが、いまやこんなに大きくなった子につながっているのだな、と思うと感慨深い。この歌の作者は2人の幼い子供のおかあさん。1人でも大変なのに、2人連れていたら歩幅も歩く方向も別々ということもあり得る。しかし、彼女の偉いのは、その大変さを一時期のことだと心得ているところだ。それどころか、子供との時間を限りなく慈しむ思いで、ちまちまと歩を進めている。
駅のホームなどで、子供を引っつかむように横抱きにして駆けてゆく女性を見ることがある。親たちが子供とゆっくり歩く時間を持てる社会だったら、きっと少子化問題は起こらないと思う。
☆前田康子歌集『キンノエノコロ』(砂子屋書房、2002年10月出版)