2006年06月23日

カスタネット

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手のひらに溢るる水の音を聞けカスタネットの内なる大河
                山吹明日香


 カスタネットという楽器は、案外知られていない。小学校時代、赤と青のカスタネットを片手にはめて「ウン、タッ、ウン、タッ」と叩いた記憶のある人は多いだろうが、それ以外の場で目にすることはあまりない。オーケストラでもカスタネットの出番は、ほとんど見ない。
 日常的にカスタネットの音を聞き、自分でも打ち鳴らすという人は、ほぼフラメンコを踊ると考えてよいのではないか。そして、フラメンコを知る人でないと、この歌の小気味よさというか「溢るる水の音」の感じは分からないと思う。利き手の指をピアノを弾くように素早く動かすことで流れ出る連打音は、まさに水流のようだ。
 作者が踊る人かどうかこの歌からだけでは分からないが、歌集の前後の歌を見ると、フラメンコの舞台を見たときに作ったようだ。汲めども尽きぬ大河のように、両手からカスタネットの音が溢れ出る様子に感動したのだろう。非常に意外性があり美しい表現だ。
 けれども、フラメンコを習うすべての人がカスタネットをこんなふうに打てるかというと、それは疑問である。「踊るのは好きなんだけど、カスタネットは嫌い」というフラメンコ友達は少なくない。私は、と言えば、カスタネットが好きでたまらないのだが、この歌のような連打ができるようになりたくて5月に猛練習した結果、右ひじを痛めてしまった。マグカップを持ち上げるだけで、まだひじがずきんとする。大河は遠い。

☆山吹明日香歌集『夜音の遠音』(北冬舎、2006年5月出版)
posted by まつむらゆりこ at 10:46| Comment(2) | TrackBack(0) | 情熱のフラメンコ短歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 拙歌をお取り上げいただき有難うございました。私がフラメンコを習ったのはほんの少し、セビジャーナスの一番の最初の振りが踊れるくらいです。
 今日は、国末しをんさんのリサイタルに行ってきました。小松原庸子さんのお弟子さんだった方です。残念ながらカスタネットを使った曲はありませんでしたが、ロルカの詩の朗読も織り込んだ濃密な演出でした。腕の動きも、指のこまかな動きも、こんなに美しいものだったのだと再認識しました。
Posted by 山吹明日香 at 2006年06月24日 21:41
山吹さん、さっそくのコメントどうもありがとうございました! やっぱりフラメンコをなさったことがおありになったんですね。う〜む……。
これからもフラメンコの歌を紹介してゆくつもりですので、どうぞよろしくお願いします。
Posted by まつむらゆりこ at 2006年06月24日 22:22
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