愛それは閉まる間際の保育所へ腕を広げて駆け出すこころ
松村由利子
延長保育をする保育所が増えている。それは働く親にとってありがたいことだ、もちろん。しかし、どれほど保育時間が延長されようと、延長された分ぎりぎりまで働いてしまう現実がある。早く迎えに行けばいいのに、自分の小さな満足感のために「もうちょっと、きりのいいところまで」と仕事したり、上司の目が気になって1分でも長く職場にいようとしたり…いま思えば実につまらないことをした。本当に大切なものは、そう多くはない。
ほとんどの子供たちが帰った保育所はがらんとしていて、先生もわずかしか残っていない。子供は、最後の一人になったことに対して抗議を示そうと、抱きしめようとする両腕から身をよじって逃げようとする。朝は何ともなかった膝小僧に、絆創膏が貼ってある(ああ、「ばんこーそー」と言っていたあの頃!)。「ここ、どしたの?」。尋ねた途端に、わぁーと泣き出す。
そんな日々を思い出すたびに、子供が保育園児だった頃が私の「華」だったなぁと思う。
☆『薄荷色の朝に』(短歌研究社)