2011年04月29日

パンの幸福

0429bread.jpg

  ふくよかなパンの包みを押しあてて妻はその胸もちて戻れる
                          石本 隆一
  トーストの焼きあがりよく我が部屋の空気ようよう夏になりゆく
                          俵  万智
  バゲットを一本抱いて帰るみちバゲットはほとんど祈りにちかい
                          杉ア 恒夫


 焼きたてのパンを食べるのは、ささやかな、しかし大きなしあわせである。パンの歌にはなぜか、何ともいえない幸福感が詠われたものが多い。
 一首目は、焼きたてのパンのやわらかさと「妻」の胸が重ねられていて、全体に温かい雰囲気が漂う。
 二首目に詠われているのは、五月初旬くらいの季節ではないだろうか。あるいは梅雨明けかもしれないが、私は青葉の美しい初夏を選びたい。新しい季節の到来を喜ぶだけでなく、新たな恋の予感を抱いているような、弾んだ気持ちが感じられる。
 三首目の作者は、バゲットを垂直に立て、ちょっと生真面目な顔で歩いているようだ。「祈り」にはいろいろ考えされられるが、素直に「焼きたてのパンを買えるしあわせ」への感謝と取ってよいだろう。
 パンの大好きな私が、ついに石垣島のパン屋さんの取材を始めた。それぞれのお店の話が面白くて、いろいろ書きたくなるのだが、これは5月下旬に更新されるウェブマガジンをお待ちいただくしかない。いまアップされたばかりの回は「天文」がテーマである(http://kaze.shinshomap.info/series/ishigaki/04.html)。パン屋さんの回を、どうぞお楽しみに!

 ☆石本隆一歌集『木馬情景集』(短歌新聞社、2005年11月)
 ☆俵万智歌集『サラダ記念日』(河出書房新社、1987年5月)
 ☆杉ア恒夫歌集『パン屋のパンセ』(六花書林、2010年4月)
posted by まつむらゆりこ at 11:32| Comment(13) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
石垣は石垣牛というイメージが強いので、松村さんのパン屋の取材、楽しみです。

※こちら関西は神戸、西宮などおいしいパン屋さんが多いです。ちなみに先日のTVで、パンの消費量ベストテンで京都市・奈良市・神戸市などがランクインしていてビックリしました。
Posted by 中村ケンジ at 2011年04月30日 01:19
焼きたてのパンを食べる幸福感・・・
なんとなくですがわかるような気がします。
あったかいご飯とは、またちょっと違った感覚かもしれませんね^^
Posted by KobaChan at 2011年04月30日 06:37
中村ケンジさん、
石垣牛の取材もいずれする予定です!
関西のパン文化は歴史がありますよね。いいなぁ。

KobaChanさん、
あっ、そうですね。炊きたてのごはんが家庭的な感じがするのに対して、焼きたてのパンは個人的な喜びかもしれません。
Posted by まつむらゆりこ at 2011年04月30日 09:51
焼きたてのパンのあの香りは、たしかに幸福感につつまれる気がします。
自家で焼いているパンをその日のうちに売る
小さなベーカリーが好きです。
人の手のぬくもりを感じるからでしょう。
Posted by SEMIMARU at 2011年04月30日 19:18
「角川」5月号、読みました。
石垣島の写真もキレイでした。
馬場さんと松村さんの一首も良かったです。
Posted by 中村ケンジ at 2011年05月01日 12:06
 おぉ・・・ リンク先の記事、石垣島で南十字星が見ごろの季節ですか! いいですね〜(>_<)
 私は3年前に一度、オーストラリアで見ましたが、あの端正な星の並びに夕方も深夜も早朝も見入っていたものですよ。

 松村さんの記事でもテッポウユリ、アカショウビンと・・・自然の豊かさを感じさせる記事の連続で、素敵な土地で暮らしているのだろうと感じています。
Posted by U-runner at 2011年05月01日 12:36
SEMIMARUさん、
私も小さなベーカリーが好きです。
そのお店ごとの特徴があって楽しいし、確かに「人の手のぬくもり」を感じます。

中村ケンジさん、
角川の「短歌」5月号、見てくださってありがとうございます。石垣島の名歌、私にとって大切な一首です。

U-runnerさん、
ぜひぜひ石垣島へも一度いらしてください。天文台の方たちもフレンドリーですよ♪
Posted by まつむらゆりこ at 2011年05月01日 15:44
パンの焼ける匂いというと
絵本『マフィンおばさんのぱんや』と

阿波野青畝の

復活の午餐のパンのにほひけり

を思い浮かべます。
Posted by よいかおり at 2011年05月02日 10:42
よいかおりさん、
『マフィンおばさんのぱんや』には、おいしそうなパンがたくさん登場しますね!
阿波野青畝の一句は知りませんでした。西洋っぽい雰囲気の一句に惹かれました。
Posted by まつむらゆりこ at 2011年05月02日 16:42
松村さん
こんばんは。
初めてお邪魔します。

天然酵母を使っている小さなパン屋さんを見つけると、つい入ってしまいます。

特にライ麦、全粒粉入りの噛めば噛むほどの味わい深いパンが好き。

紙袋に懐かしい茶紙を使っていると、また嬉しくなります。
Posted by PiyoPiyo at 2011年05月04日 22:33
PiyoPiyoさん、
はじめまして!小さなパン屋さん、しかも天然酵母を使っているところって、いいですよね。私も「噛めば噛むほど」のハード系のパンが大好きなんです。パンのためには、呼吸できる紙袋の方が断然いいそうです。でもビニール袋よりコスト的に高いのが難点なので、紙袋を使っているお店は良心的なのです♪
Posted by まつむらゆりこ at 2011年05月05日 11:10
3月中旬から4月にかけて、かつてなかったほどパンを手作りしました。東京の店頭からパンが姿を消したので。
さいごは強力粉もドライイーストも売り切れて(みな考えることは同じだったらしい)、自宅で作ることもできなくなりました。集団心理ってこわいですね。

…って言ってる自分も、ふだんだったら一週間くらいパン食べなくても平気なのに、手に入らないとわかったとたんに必死で焼き始めたんだから、今考えるとなんだかおかしくなってきます(笑)。
Posted by もなママ at 2011年05月06日 23:58
もなママさん、
あなたほどパンを焼くのが似合う女性もいませんね! しかし、「店頭からパンが姿を消した」なんて……。
このところパン屋さんでパンを買っては取材依頼をしているので、食べきれないパンが冷凍庫にあふれています!
Posted by まつむらゆりこ at 2011年05月07日 18:04
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