小島ゆかり
子どもは油断がならない。ほっておくと「いい子」になろうとするからだ。親を喜ばせようとして、大人に褒められようとして、彼らはとことん心を砕く。
幼い子どもをもつ親を対象にしたアンケートには、「どんな子どもに育ってほしいか」という質問がよくある。そこに「人に迷惑をかけない」という選択肢を見つけると、とても苛立ってしまう。他人に迷惑をかければ、結果的に親である自分が迷惑をこうむることになるから、というエゴイスティックな理由が潜むように思えるからだ。人に迷惑をかけずに生きるなんて、ほとんど不可能である。「私は誰にも迷惑をかけたことがない」と言う人がいたら、申しわけないが、かなり鈍感な人だと思う。
「いい子」というのは、多くの場合、親や大人にとっての「いい子」である。そんなものになっても仕方ない。その子が感情を素直に表現したり、自分のしたいことを貫いたりすることの方がどれほど大切か。それが時に周りの子どもとの衝突を生んだり、大人をうんざりさせたりしても、大したことではない。自分を大事にできない人間は、人を大事にできない。誰にも迷惑をかけないように気を配るよりも、たとえ迷惑をかけてしまっても後でちゃんとフォローする方が現実的だ。
親は往々にして、言葉以外のメッセージもたくさん発している。口では「あなたの好きなようにしていいのよ」と言っても、表情や口調が「でも、お母さんはね……」と反対のことを語っていては、子どもは自分の思うとおりに行動しにくい。この歌の作者は、2人の女の子の母親である。五七五七七に収まりきれないほどの真情があふれていて、胸が熱くなる。
☆小島ゆかり歌集『獅子座流星群』(砂子屋書房、1998年6月出版)