天瓜粉しんじつ吾子は無一物
鷹羽 狩行
天瓜粉(てんかふん)は、ウリ科の植物の根からとったでん粉のことをいう。吸湿性があり、古くからアセモの治療に用いられてきた。だから、時代が変わり、一般的な商品名が「ベビーパウダー」となっても、お年寄りは「てんかふん」と呼び続けてきた。私の祖父母もそうであった。
子どものころの夏は、夕方になると汗びっしょりになり、ごはん前に行水をさせられることが多かった。時々遊びに行った祖父母の家でも行水させられていた記憶がある。小学校に上がる前の弟が裸のまま風呂場から飛び出してくると、祖母が「てんかふん、てんかふん」と言いながら追いかけていたのを思い出す。あの頃は、夏になれば子どもはアセモができるのが普通だったのだろうか。鼻の頭やおでこにいっぱい赤いぽつぽつをこさえていた弟は、前髪が顔にかからないように結わえられ、よく女の子と間違われていた。
この句を読むたびに、てんかふん(実はベビーパウダー)を全身にまぶされていた小さな弟の姿が目に浮かぶ。「天瓜粉(天花粉)」は夏の季語であり、エネルギーに満ちた季節と子どもの姿がよく合っていると思う。真裸の子どもは、それだけで完結した存在であり、親としてはまぶしくもあり、自分が与えられるものなど何もないような気にさせられる。
ところで、なぜここにベビーパウダーの写真があるのか。ブログに載せるためにわざわざ買ってきたのではない。実は、このところの暑さでアセモができてしまったのである。
私の家にはエアコンがない。去年までは会社勤めだったから、通勤電車で冷やされオフィスで冷やされた体にとっては、家にいるわずかな時間(本当にわずかだった!!)くらい夏の暑さを味わうことはむしろ必要なことだった。しかし、自宅で汗を流しつつ仕事をするようになった今夏、ふと気づくと両腕に赤い発疹ができていた。「もしかして……いや、まさか」と思いつつ、ベビーパウダーを買ってきて風呂上がりに付けたところ、翌朝には見事に赤みが取れ、なめらかな皮膚に戻っていた。
パタパタと叩いたときに、薫ってくるあの独特のイイ匂いは、夏なのにサラサラとした感触とともにとても心地よいものでした。
母は、夏になるとなんでもかんでも『てんかふんつけとけっ!』と言っていたし(笑)弟と巫山戯て顔中まっ白にしていたら、こっぴどく怒られたような記憶も…
そして「天瓜粉」と書くことを、恥ずかしながら初めて知りました(笑)そうだったんだ…瓜のでんぷんなんだぁ〜と新鮮な思い。
失礼ながらもまつむらさんが、てんかふんで一息ついている図は、なんだか微笑ましく想像できます…そんな悠長な状況ではないのかもしれませんが…夏ももう少しです、涼風であせもの悩みが無くなる季節まで、パタパタと乗り切ってくださいね!
何か、てんかふんって夏の男の子と合いますよねえ。