2006年09月05日

子どもの匂い

KICX0418.JPG

  太陽のかおりがするね日向から帰って抱きつくおまえの髪は
                  久保 剛


 子どもの髪は本当にやわらかくて、つやつやしている。そして、何ともいえない、いい匂いがする。「抱きつく」のは、作者の小さな愛娘である。この歌を読んで「いや、恋人かもしれないじゃないか」という人もいるかもしれないが、日向のにおいをさせているのは、やっぱり子どもだろう。そして、その子が男でなく女の子であることが、一首全体の甘やかな雰囲気から何となく伝わってくる。ここが短歌のちょっと不思議なところだと思う。
 先日、電車に乗ったとき、向かい側の席に5歳くらいの女の子とお父さんが坐っていた。長い髪を二つに分けて結わえた女の子は、お父さんの片腕に自分の両腕を巻きつけ、ぴったりと寄り添っている。二人は何を話すでもなく静かに坐っていたのだが、その満ち足りた様子にこちらまで幸福感を味わった。「ああ、あんなにお父さんのことが好きなんだ」と思うと、何だか胸がきゅっとなった。
 この歌の作者には、三人の子どもがいて、二人は男の子、一人が女の子である。「太陽のかおり」をさせて駆けてきたのは末っ子の女の子だが、今は思春期を迎えたころだろう。もう「日向から帰って抱きつく」ことはないかもしれない。けれども、父親にとって娘というものは、いつまでも「太陽のかおり」をさせているものではないかと思う。

☆久保剛歌集『冬のすごろく』(角川書店、2001年6月出版)



posted by まつむらゆりこ at 09:19| Comment(2) | TrackBack(0) | 元気の出る子育て短歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
日向のにおい…明確な理由などないのに、なんだか幸せな気分になってしまいます。それは春夏秋冬を問わず、凹んだ折々に優しくやってくるのですが…冬はとりわけありがたい…なんて柄にもなく感じ入りました(笑)
Posted by こびん at 2006年09月06日 10:25
犬や猫の日向のにおい、もありますよね。
でも、小さな女の子の日向のにおいは、また格別なんだなあ。
Posted by まつむらゆりこ at 2006年09月07日 11:10
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