2006年09月09日

わが子

KICX0376.JPG

  子に送る母の声援グランドに谺(こだま)せり わが子だけが大切
                  栗木 京子


 運動会はいいものだ。子どもたちが一所懸命に走ったり踊ったりする姿を見ると、胸が熱くなる。
 作者は子どもの運動会に行き、他の父母たちと同じように「○○ちゃーん、がんばって!」と声援していたのだろう。そして、はっと気づく、「この声援のひとつひとつは、『わが子』に向けられたものなのだ」と。
 「わが子」という言葉、あまり好きではない。何だか甘ったるい。そして、他を排除するような響きがある。週刊誌の見出しに「難病に苦しむわが子と共に20年」「わが子を殺した鬼のような母」といったフレーズを見ると、むずむずして落ち着かない。必要以上に、母親と子どもをくっつけようとしていると感じてしまう。
 この作者もきっと「わが子」の甘さを知っている。けれども、敢えてその言葉を使い、「わが子だけが大切」とぬけぬけと言ってみせたのは、自分も含めた親というもののエゴイスティックな思いを強調したかったからだろう。「私もそうですけれど、親って自分の子どもしか見えていないんですよね」。そう言いながら、作者はしんと悲しい気持ちを抱えている。「父母」でなく「母」としたところには、自らを省みる気持ちも表れているようだ。
 多分、「わが子だけが大切」は出発点なのだと思う。それを深く自覚したところから、何かが始まる。自分の子どもを大切にできない人間が、その子と同じ学校に通うたくさんの子どもたちや、悲惨な状況にある遠い国々の子どもたちについて考えられるはずがない。もしかすると、「わが子だけが大切」という自覚は、謙虚になることでもあるかもしれない。「すべての子どもが大切に決まっている」という建前、偽善を捨て、一人の弱い親である自分を見つめること。私もそこから始めたい。

☆栗木京子歌集『綺羅』(河出書房新社、1994年4月出版)

posted by まつむらゆりこ at 09:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 元気の出る子育て短歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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