息子よ、はにかみてそしてためらいて手をつなぎくる、
爪が長いね 松平 盟子
離婚して子どもと暮らせなくなるのは、本当に悲しくやりきれないことだ。これは、離婚後しばらく会えなかった小さな男の子と再会した母親の歌である。
作品の解釈というものは必ずしも一つではないが、あまりにも他の人と違う読み方をするのはよくないだろう。私は長い間、この歌を間違って解釈していた。ちょうど自分が子どもと離れて暮らすようになった頃に発表されたこともあり、非常に共感をもって読んだのだが、最後の「爪が長いね」は母親の嘆きかと思って読んでいたのである。
1カ月に1度会う息子の爪が長く伸びていると、私は何だか胸が締めつけられるようだった。自分は何の世話もしていないくせに、子どもを不憫に思ったりした。小さな爪切りをいつもカバンに入れておき、会うと必ず爪を切ってやるようになったが、ある時ふと、「もしかすると、先方は私のために、わざと爪が伸びたままでこの子を送り出してくれているのかもしれないな」と思った。実際、子どもの爪を切る、その時だけ私は母親らしいことをしているという満足感を味わっていたからだ。
こんなふうに爪についてあれこれ考えていたので、この歌について、久しぶりに会った母親のきれいに伸ばした爪を見て、子どもが不思議そうに「爪が長いね」と言った場面だという批評を見て、非常に驚いた。なるほど。離婚した作者が「母」というよりも「女」になったことを、長い爪が象徴しているのである。私の解釈だと、登場する母親はまるっきり野暮ったくて垢抜けない。「何でお母さんの爪、こんなに長くなっちゃったんだろ」と首をかしげる男の子に、嫣然とほほ笑む母親の何と悲しくも美しいことだろう!
☆松平盟子歌集『プラチナ・ブルース』(1991年、砂子屋書房)