遊びたい寝るのは嫌と子は泣けりこんなにわれは眠りたいのに
吉川 宏志
全く子どもというものは、どうしてあんなに寝るのが嫌いなのだろう。そして、早く寝かしつけて持ち帰った仕事を片付けたいときなどに限って、魔物がついたのかと思うほどいつまでもはしゃいで寝ないのだった。自分の方が眠気に勝てなくて、結局朝まで一緒に寝てしまうことも少なくなかった。
この歌の作者も、そんな状況を抱えているのかもしれない。一緒に寝てしまえれば、まことに幸福なのだが、そういうわけにはいかない。明日までにしておかなければならないことをあれこれ抱え、しかし疲れた体は深い眠りに引き込まれそうになっている。「いったい全体、こんなに寝ないなんて、この子はどうなっちゃってるんだ」と憎たらしく思うことも、親ならば誰もが経験することだ。歌を読むと、困り果てている父親の顔が浮かび、笑ってしまう。
息子が3歳くらいのとき、夜寝かしつけていてようやく静かになったので「寝たかな?」と顔を見たら、目をぱっちり開けて天井を向いていたことがあった。がっかりしたのと腹立たしいのとで、私は「どうして寝ないの!」と声をとがらせた。すると、彼は「なんか……なんか、あそびたい」と言ったのである。その答えに私は脱力してしまった。
そうか、子どもってエネルギーに満ちていて、いつまでも遊びたい生きものなんだ。そう納得したとき、自分が本当に大人になってしまって、そのエネルギーにかなわないことが心底さみしかった。
☆吉川宏志歌集『海雨』(2005年、砂子屋書房)