2006年10月13日

寝かせる

KICX1013.JPG


  遊びたい寝るのは嫌と子は泣けりこんなにわれは眠りたいのに
                    吉川 宏志


 全く子どもというものは、どうしてあんなに寝るのが嫌いなのだろう。そして、早く寝かしつけて持ち帰った仕事を片付けたいときなどに限って、魔物がついたのかと思うほどいつまでもはしゃいで寝ないのだった。自分の方が眠気に勝てなくて、結局朝まで一緒に寝てしまうことも少なくなかった。
 この歌の作者も、そんな状況を抱えているのかもしれない。一緒に寝てしまえれば、まことに幸福なのだが、そういうわけにはいかない。明日までにしておかなければならないことをあれこれ抱え、しかし疲れた体は深い眠りに引き込まれそうになっている。「いったい全体、こんなに寝ないなんて、この子はどうなっちゃってるんだ」と憎たらしく思うことも、親ならば誰もが経験することだ。歌を読むと、困り果てている父親の顔が浮かび、笑ってしまう。
 息子が3歳くらいのとき、夜寝かしつけていてようやく静かになったので「寝たかな?」と顔を見たら、目をぱっちり開けて天井を向いていたことがあった。がっかりしたのと腹立たしいのとで、私は「どうして寝ないの!」と声をとがらせた。すると、彼は「なんか……なんか、あそびたい」と言ったのである。その答えに私は脱力してしまった。
 そうか、子どもってエネルギーに満ちていて、いつまでも遊びたい生きものなんだ。そう納得したとき、自分が本当に大人になってしまって、そのエネルギーにかなわないことが心底さみしかった。

☆吉川宏志歌集『海雨』(2005年、砂子屋書房)
posted by まつむらゆりこ at 10:07| Comment(1) | TrackBack(0) | 元気の出る子育て短歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
落語にありましたなぁ。「子持ちの眠たがり」てのが。「寝ていても団扇の動く親心」つーのもあった。こどもが深夜目を覚ましたら、いるはずのおかあさんがいなくて、そこにお父さんが帰宅したというのもどこかにあったシーン。こういうのはどううたに詠めばよいのでせうか。
Posted by 冷奴 at 2006年10月13日 15:35
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。