2012年11月22日

猫が来た!

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 リアル系の歌人、あるいは「歌のなかの『われ』=作者」と思っている人からは、ひんしゅくを買うかもしれないが、歌人の私は嘘つきである。
 表象としての猫はかわいいと思うが、実際には猫そのものは苦手であった。なのに、気まぐれに猫と自分を重ねた歌を作ったりしていた。

  猫なれど尾を振る習い覚えんと残業こなす均等法以後
  やんわりと仕事の筋を通しつつ猫語を解する上司が欲しい
  灼けた砂に四肢を伸ばして啼いてみる輪郭なきまで撫でられたくて


 こんな歌を作ったものだから、ある短歌総合誌で「あなたは犬派? 猫派?」という特集があったとき、本当は犬が好きで犬しか飼ったことがないのに、(多少は気が咎めつつも)しれっと「猫派です!」という回答を提出したのであった。

 ところが人生はわからないもので、先週わが家へ仔猫が2匹やってきた。
 ことのはじまりは、相棒が得た「近所の牛小屋に捨て猫がたくさんいる」という情報であった。いつもは私に対し兄貴風を吹かす相棒が、遠慮がちに「君は猫があんまり好きじゃないから、別に飼いたいってわけじゃないんだけどさ…」と切り出したのが少々気味も悪かったのだが、まあ見に行くだけなら、と同行することになった。
 そして、わらの積まれた牛小屋で、猫好きの相棒が相好を崩して仔猫と遊ぶ様子を見て、「うーむ、私のせいで猫なし人生を送らせるのは、この人にとってQOLを著しく低下させることになるかもしれん。それは人道上どうなのか」と葛藤すること数日……トイレのしつけはどうするのか、グランドピアノの脚で爪とぎなどしないのか、といった情報収集に励み、「1匹より2匹の方が、猫同士で遊ぶので楽」というアドバイスを信じ、ついに新たな家族を2匹迎え入れることになったのだった。
 結果としては、まあ、にぎやかになってよかった。気難しい私は、「人間みたいな名前はつけない」「可能な限りキャットフードは利用しない」「布団の中には入れない」などの条件を付けたのだが、今のところ問題なく1週間が過ぎた。
 愛玩動物を飼うのは、少々罪の意識を伴うことだ。『アジアを食べる日本のネコ』(梨の木舎、1992年刊行)には、フィリピンやインドネシアで獲られたマグロが、タイにあるペットフード工場で加工される実態がルポされている。現地の人には手の届かないマグロである。ペットフード市場は年々拡大する一方で、日本での消費量は2400億円を超えているのだが、捨てられる犬や猫が一向に減らないのはどうしたことだろう――。小さなふわふわした家族と暮らす日々、こうしたことも忘れてはいけないと心に銘じている。

 *松村由利子歌集『薄荷色の朝に』(短歌研究社・1998年12月刊行)
posted by まつむらゆりこ at 00:00| Comment(13) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
だめだよ!!

「猫は魔物」なんだよ!!

「犬派」「猫ギライ」と言いながら、ひょんなことから飼い始めたが最後、すっかりやられてしまって猫に溺れた人を何人も知ってるよ!!

由利さんもきっとそうなるんだろうなあ。
おもしろそうだからずっと成り行きを見守ろうっと♪
Posted by もなママ at 2012年11月22日 17:36
もなママさん、
大丈夫だって!動物に対しても人間に対しても、クールでいたい私です(ホントか!)。
Posted by まつむらゆりこ at 2012年11月22日 17:48
2匹の親じゃないけれど、なり代わって御礼申し上げます。不束者ですが、これからどうぞよろしくお願いします。かわいいでしょ? 面白いですよ、楽しいですよ。
こちら「魔物」の猫に魅入られ、魂を売ってしまって何十年になることか。四半世紀前にうちに来られた時に、会ったことあるかな? 
そのうちキーボードを使いこなして、次々と歌を発表してくれることでしょう。猫は器用だし、詩魂豊かな動物ですから。松村由利子の作品がどう変わるか、楽しみにしています。
Posted by 濱徹 at 2012年11月22日 21:41
濱徹さん、
お励まし、ありがとうございます。キャッツらは、だんだんに我が物顔であちこち歩くようになり、前衛的な文章を書き始めました。乞うご期待です!
Posted by まつむらゆりこ at 2012年11月23日 10:09
ちょっと前に、庭にネコが2ひき来ている写真を撮ってブログに載せたのですが、こちらは本当に2ひきお家に来たんですね!

私も昔から「犬飼いたい人」「ネコ好きじゃない人」でしたが、最近家のまわりにいる猫に嵌って、野良猫に名前までつけ、東の手負い猫には「もう喧嘩するんじゃないよ。これ以上傷負ったら死んじゃうから」と説教をたれ、西で喧嘩の声が聞こえると仲裁に飛び出していく、まるで宮沢賢治状態です。

そしてとうとうこんな歌を作って、
猫となりてさまよい出でしわが庭に夜更けとなれば三日月見上ぐ
見上げゐる三日月たちまち雲に消ゆ猫に三日月まさに出来すぎ
夫にその歌どうにかならないのと馬鹿にされています。
Posted by ミルトス at 2012年11月23日 15:27
 ふふふふふ。相棒さまが猫好きとは知りませんでした。小生、馬にご飯を食べさせるのが精一杯で、犬猫は飼ったことがないのですが、人生が豊かになるのは間違いないことですよね。
Posted by 冷奴 at 2012年11月23日 16:41
ミルトスさん、
おー、とても共感します。猫でなくても何かになり代わった歌は、作るのが楽しいものですから、どうぞまたお作りください!

冷奴さん、
お馬さんに食べさせるのはハラハラ、ドキドキなんでしょうね。まあ、人生で初めてのことがいろいろあるのを楽しむしかありません。
Posted by まつむらゆりこ at 2012年11月23日 18:21
家族が増えて良かったですね〜
Posted by ケンジ at 2012年11月26日 05:57
ケンジさん、
小さいものの世話をするって、基本たのしいことなんですよね〜
Posted by まつむらゆりこ at 2012年11月26日 10:55
人間みたいな名はつけない、というのは、面白い条件ですね。
猫は擬人化しやすいらしく、よく児童本に登場します。
親のいないオスメスのきょうだい猫に「とらじろう」「さくら」とつけたり、オス同士のケンカで怪我をしたとこを保護された猫を「よさぶろう」とつけた人もいました。
Posted by SEMIMARU at 2012年12月01日 20:08
SEMIMARUさん、
何となく違和感があるんです。最近の猫の名前ベストテンを見たら、「そら」「りん」「もも」…って、近所の子どもたちの名前そのものなんでした!
Posted by まつむらゆりこ at 2012年12月01日 20:24
偶然、サイトの再開がなされているのを今日発見しました。フランスの猫はフランス語しかわかりません。日本語で語りかけると目を丸くしますが、フランス語で話せば、ミィアオと答えます。
サイト再開おめでとうございます。
また勉強させていただきます。ありがとうございます。
Posted by つた姫 at 2012年12月30日 04:15
つた姫さん、
お久しぶりです。細々とした「再開」ですが、またよろしくお願いします。フランスの猫たちにもよい新年が訪れますように。
Posted by まつむらゆりこ at 2012年12月30日 11:26
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