2007年02月14日

鯨の世紀

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  鯨の世紀恐竜の世紀いづれにも戻れぬ地球の水仙の白
                     馬場あき子


 「恐竜の世紀」というのは、『ジュラシック・パーク』などで得た知識から大体わかると思う。でも「鯨の世紀」って?と首をかしげる人は多いかもしれない。私も、以前取材したことがなければ、この歌を読んでわからなかっただろう。
 白亜紀に栄えた恐竜が絶滅したのは6500万年前。その後、5200万年前ごろに四足をもって歩いたり泳いだりすることのできる原始的な鯨類、アンブロケタスが現れ、ハクジラ類やヒゲグジラ類に進化していった。中でも、ハクジラ類に含まれるカワイルカはかなり早い時期に現れ、そこから鯨類が多様に進化したことが分かっている。研究者によると、カワイルカは400万年にわたって進化し、それぞれが繁栄したという。ところが、今やヨウスコウカワイルカが絶滅の危機に瀕するなど、鯨の繁栄は過去のものになった。
 この歌の作者は、そういうことを考えながら、白亜紀の初めごろから花を咲かせてきた被子植物を見ている。水仙はたおやかなたたずまいながら、強い香りを放つ。ちょっとした風にも頼りなく揺れるのに、凛とした風情がある。「恐竜や鯨と同じように、人間の繁栄もいつか終わるでしょう。そのときも、きっとあなたは同じように花を咲かせているのね」
 作者は1928年生まれである。幅広い評論活動で知られる歌人で、能に造詣が深い。この歌は、鯨類の栄えた時代について何かで知ったときから温めていたのではないかと想像する。70歳を超えて、なお新しい素材を貪欲に取り込む姿勢に舌を巻く。


☆馬場あき子歌集『世紀』(梧葉出版、2001年12月刊行)
posted by まつむらゆりこ at 10:14| Comment(14) | TrackBack(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
松村さん、こんばんわ。

ご紹介いただいた馬場あき子も、
そして松村さんも博学な方なのですね。
恐れ入りました。
私もしっかり学習しなければと、
思ってしまいました。
Posted by KobaChan at 2007年02月14日 22:40
KobaChanさん、

いやいや馬場さんはともかく、私は仕事でたまたま知ったことです。
新しい素材を歌に取り入れるための心がけは大事だな、と思います。
テレビを見ていても、雑誌を読んでいても、「おっ、これ使える!」と思ったネタをメモしておきます。そういう努力をしないと、だんだん守備範囲が狭くなり、歌が枯渇してしまうのですよ。
Posted by まつむらゆりこ at 2007年02月15日 00:21
松村さん、おはようございます。

レスありがとうございます。
とても大切なことを教えていただきました。
微力ながら、私も自分の生活の中で、
教えていただいたことを
少しでも実践できるように心掛けます。

ひとつPRさせて下さい。
最近、五行歌を作りはじめて、
自分のブログにアップしています。
お時間あるときに、ご覧いただけないでしょうか。
よろしくお願いいたします。
<m(__)m>
Posted by KobaChan at 2007年02月15日 06:44
松村さん、こんばんわ。
当方のブログに、早速お越しいただき、
またコメントをありがとうございました。
五行歌もスライドショーと合わせて、
少しずつアップして行きます。
ぜひまたお越しいただきたく、
よろしくお願いいたします。
拙いものばかりですが、
お気づきの点など、ご指導賜れれば、
とても光栄です。
Posted by KobaChan at 2007年02月15日 19:09
松村さん、たびたびすいません。
本日、当方のブログに
松村さんからいただいた貴重なコメントを
引用させていいただきながら、
「五行歌」の面白さを記事にしました。
自分なりに感じたことを、生意気にも
短歌との比較もしながら書かせていただきました。
どうぞ、お時間ございます時に、
ご覧いただきたく、お願いいたします。

http://blogs.yahoo.co.jp/kobachan_v/44711682.html

またこの記事では、
松村さんのご紹介もさせていただいておりますが、
もし問題があるようでしたら、おっしゃって下さい。
よろしくお願いいたします。
Posted by KobaChan at 2007年02月15日 21:20
KobaChanさん、
ブログ拝見しました。何だか面映いようです。
五行詩って本当に、「詩」の原型みたいであったかな感じがします。むりやり五七五七七に押し込めないで、ゆったりとした響きのままでいるような。

私のブログのことなどもご紹介してくださり、とっても嬉しいです。
さすがに、そちらにお礼のメッセージを書き込むのはちょっぴり照れるので、ここでお礼を言わせてくださいね。
また遊びに行きます。
Posted by まつむらゆりこ at 2007年02月15日 22:56
松村さん、ただただ恐縮です。
今後とも、
どうぞよろしくお願いします。
Posted by KobaChan at 2007年02月15日 23:13
わたしたちって、「人間の世紀」に生きてるんだね。

うれしいなあ☆
Posted by もなママ at 2007年02月16日 10:40
読売新聞の書評欄、見ましたよ!すごいですね。

たろちゃんも、「ほらね、ブレイクするって言ったでしょ!」って喜んでました☆
Posted by ルーシー at 2007年02月16日 13:09
もなママさん、同感です♪

ルーシーさん、うーん「ブレイク」?(照)
引用したたくさんの歌が素敵だってことですよ。
Posted by まつむらゆりこ at 2007年02月16日 16:43
物語のはじまり 読ましていただきました。
紹介にある 歌集「鳥女」「薄荷色の朝に」を お願い致したく
連絡方法をお教えください。
Posted by yuzo_3225 at 2007年02月17日 09:44
松村さんに導かれた短歌初心者の私ですが、先週末NHKで短歌コンテストをやってたので、初めて拝見しました。 そしたら、選者のお偉い先生方のお一人に、この歌の作者の馬場あき子さんも列席されてました。優しいおばあさんという感じでした。 他にも俵万智さんや、イケメンの若手先生などもいてなかなか面白かったです。 松村さんもきっといつの日か、あのステージに選者の先生として並ばれることでしょう。
Posted by けんたろう at 2007年02月20日 23:08
「優しいおばあさん」???
そうかぁ、知らない方にはそう見えるかもしれませんね。
あの方は恐ろしく頭が切れて、辛辣で、面倒見がよくて、エネルギッシュで……スーパーウーマンなのですよ。
私など、とてもかないません!
Posted by まつむらゆりこ at 2007年02月21日 09:44
松村さん、こんばんわ。
この場を借りてのご案内失礼します。

当方ブログへの五行歌の書き込み、
本当にありがとうございました。
作品の縦書き画像とスライドショーがご用意できましたので、
お時間ある時にご覧になってみて下さい。

http://blogs.yahoo.co.jp/kobachan_v/44918537.html

どうもありがとうございました。
Posted by KobaChan at 2007年02月22日 23:35
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