2007年02月23日

「ジブン」

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 慈しむ手間を母より奪い去り八朔をむく三歳の「自分」

 この歌は、子どもが「自分」を連発するようになった三、四歳の頃に作った。ついこの間やっと立って歩き始め、まだ何にも一人でできないくせに、ことあるごとに「ジブンで」「ジブンで」と主張する生きものには呆れた。「ジブン」という言葉の響きを初めて聞いたような不思議な感じがした。
 柑橘類は私の好物である。中でも好きなのが八朔(はっさく)で、春先はせっせと買って食べる。編み物や刺繍などの手仕事は苦手だが、誰かのために八朔の皮をむいていると何だかまめまめしい働き者になったようで嬉しくなる。
 だから、子どものために八朔をむく時間というのは私にとって、とてもやわらかで心落ち着くひとときだった。歯みがきや着替えは、いずれ一人でできるように仕向けなければならないが、八朔をむくのは「愛情深い母」を演出するうえでも、結構気に入っていた作業だった。「これも自分でやりたいって?」とがっくりしながら、私は「あ〜、子どもは本当にすぐ大きくなっちゃうんだ。親がしてやれることなんて、わずかなんだなあ」と思った。
 店先で明るいオレンジ色の果実を見ると、子どもの幼かった頃を思い出す。あんなに小さいうちから、自立心というものは育ち始めるのだ。そして、人はみな一人で生きなければならない――いろいろなことを、あの小さな男の子から教わったなあ、と思う。

☆松村由利子歌集『薄荷色の朝に』(短歌研究社)
posted by まつむらゆりこ at 15:36| Comment(7) | TrackBack(0) | 元気の出る子育て短歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お母さんの気持ちなんですね^^
子供が大きくなると、
ちょっと寂しいという気持ちも、
私も良くわかるような気がします。
今日、私は次女(小6)の「6年生を送る会」を
見てきました。
娘たち6年生は「よさこいソーラン」を踊り、
家の娘も頑張って踊っていました。

「本当に大きくなったんだなぁ。」と
嬉しい思いがある反面、
ちっちゃかった頃が懐かしかったり。
まつむらさんの八朔の思い出と、
似たような思いにひたっていたかもしれません。
Posted by KobaChan at 2007年02月23日 18:41
私は、皮の柔らかいみかんはともかく、他のオレンジ系の皮を剥くのが苦手で、自分で剥くくらいなら食べない(蟹もしかり)という時期が長かったです(今は自分で剥けますよ、(^^ゞ)。。。そのためか、一人で生きる→自立する、のが非常に遅れました。母はいい年をした私に、「いい加減に自立してね」という思いで剥いてくれていたかも?と思った次第です。
八朔の皮を剥くというささやかな行為にも人の生き方が見えるのかもしれませんね。
Posted by あらら at 2007年02月23日 22:54
先日、下の娘が7歳になりました。
バースデイケーキのろうそくに火を灯しながら
この一本一本が今までの1年なんだと思い
感慨深かったです。

「じぶん」っていいますよね〜なつかしい。
うちは牛乳をつぐときに「じぶんぶんっ!」
ってこぼされたことが何度もあります(^^)
Posted by ようこ☆ at 2007年02月24日 00:12
あららさん、
いやー、なぜか私はカニに関してはおっくうになってしまいます。不思議!

ようこさん、
おお、7歳! まだまだ黄金の子ども時代ですね。うらやましい。
「じぶんぶんっ!」ってかわいー♪
Posted by まつむらゆりこ at 2007年02月24日 08:58
母が生きているうちは、いつまでも八朔の皮をむいてもらうであろう私…。

こんな私でも、母は「巣立っていくのがさびしい」と思ってくれたのでしょうか。

娘達のために果物をむくのがめんどくさくてたまらない私。

こんな私でも、子供たちが巣立っていくときは泣くんでしょうか。
Posted by もなママ at 2007年02月25日 22:01
「剥けるようになった」のと「剥いてでも食べたい」のは根本的に違い、今でも自分から積極的に剥いて食べる、もしくはだれかに剥いてあげる、なんてことはない私。
めんどうくさくても「むいてあげるだれか」がいるのは素敵だなと、私は思いますが。。。。
Posted by あらら at 2007年02月25日 22:55
そういうことがわかると、この歌がすごくよいものだと思えてきます。俺、めんどくさがりでミカンの皮も最近はむきませんが。
Posted by 冷奴 at 2007年02月26日 11:40
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