
わが家に、ものすごく猫にやさしい人がいて、時々「あー、猫に対するくらい私にもやさしくしてほしいのにねぇ」と思ってしまう。落ち込んでいるとき、何だか機嫌が悪いときは、「なんで猫にだけ、そんなやさしーんだよっっ!!」と、猫に対してまで怒りが向く。
こんなにも猫にはいつもやさしくて母にはたまにつめたいわたし
小島ゆかり
なので、この歌を読んだときには、いつも穏やかな笑顔がチャーミングな小島ゆかりさんでさえ、そうなのか−−と、人間の不思議な心理を少し理解できたように思った。猫は、反論しない、うるさいことを言わない、嘘をつかない。人間を相手にするよりも、心がほっとする存在なのだろう(推定)。何を考えているのか分からないのが少々不気味なような気もするが、何を考えているのか分からないのは身近な人間であっても変わらない。だから、猫の方が安心できる、という心情もあるのだろう(推定)。
人間というのは、ややこしい生きものであり、近くの人より遠くの人に対する方がやさしくなれたりする。電車の中で会った見知らぬ人に、にっこり席を譲ったその日に、家人にはぶりぶり当たり散らしたり……という妙な行動がそれだ。
この歌には、「母」へのすまない気持ちが滲んでいる。気持ちのありようは、本人にもどうしようもない部分がある。本当はそこを見たくないのが人情だが、この作者は自分のイヤな面をきちんと見ようとする知性をもっている。そして、「母」の悲しい気持ちを思いやり、自分もまた悲しい気持ちになっているところに、読む者はじーんとしてしまうのだ。
☆小島ゆかり歌集『泥と青葉』(青磁社、2014年3月刊行)