スパイスの香る市場に生き生きと声を荒げて人はいさかう
谷岡 亜紀
旅で訪れたバルセロナで、二カ所の市場を見てきました。一つは、宿の近くのサン・ジュセップ市場。もう一つは、そこから歩いて十分程度のところにあるサン・アントニ市場です。
どちらも、いろいろな食品が並んでいて、歩き回るだけでわくわくしました。見たこともないほど大きなカリフラワーや、さまざまな色合いの宝石みたいなベリー類など、どれも味見したくてたまりませんでした。特に肉屋さんの店頭の充実ぶりはさすがです。肉だけでなく、何種類もの内臓がきれいに並べられています。皮を剥かれた仔ヤギの頭には、少々ギョッとしましたが、これも無駄なく食べる知恵なのでしょう。帰国して、フラメンコの先生に「あれはスープをとるためのものなんでしょうね」と言うと、「あら、食べちゃうみたいよ」と言われてしまいました。
この歌の場面はアジアの市場ですが、独特のにぎやかさや活気がよく伝わってきます。「声を荒げて人はいさかう」は、からっとしたやりとりに違いありません。私みたいに、通路にぼーっと突っ立っていれば「邪魔だ、邪魔だ」と言われて当然ですし、「買うのか、買わないのか、はっきりしろよ!」という声も飛んでくるでしょう。サン・ジュセップ市場では、朝からワインを飲んでいたおじさんたちが、歌いながらパルマ(手拍子)で遊んでいて、「生きる喜び、ってこういうことなんだな」なんて思いました。
サン・アントニ市場へ行く際、地図を見ながら近道したのですが、うつろな表情で道端に坐っている人の多い一帯を通るときは少し怖い思いをしました。後で確かめてみたら、出発前にスペイン通の友達が「バルセロナで危ないのはココ!」と教えてくれた、まさにその地域でした!
☆谷岡亜紀歌集『アジア・バザール』(1999年5月、雁書館)
「スパイス」が、異国をあらわす為の小道具として使われている、自然体な技巧の歌。
五感で感じたことが、そのまま描写されていて、とても爽快な歌だと思います。(結社の先輩歌人の歌を批評するのは、やや緊張しますが。)
外国の市場って、驚くことも多いんでしょうね。
「美味しんぼ」とかを読んでいると、ゲテモノなんかもしょっちゅう出てくるんですが、たとえば、中東なんかでは、羊の脳ミソを食す文化があるとか。タラやフグの味に似ているそうです。
でも、眼前にそういうモノを出されたら退くな、思わず。
ときどきTVなどで外国の市場を見るんですが、たくさんの変わった果物、野菜などが積まれていて、ちょっと楽しい気分になります。
売場のひとも国によって性格が違うから、おもしろい。
海外の旅行客が築地に来たがるように、市場が観光名所なのは、世界共通なんですね。
でも、やっぱ、首はなぁ……。
この歌、本当にあっさりしたよさがありますよね。
ご指摘の通り、嗅覚と聴覚に訴えつつ、結果的に映像を浮かび上がらせているところがうまいのだと思います。あっさり詠まれているようで、かなり巧者なのですね。
ああ、私もちゃんと市場の歌をつくらなければ!
食肉市場より、写真のような野菜・果物市場の方がいいな。色も形も。草食動物なもので。
あらためてそう指摘いただくと、無意識にイメージできることに納得してしまいました。
短歌とは奥が深いのですね。勉強になりました。
市場という空間は、わたしにとっては場違いな所に足を踏み入れてしまったような所在なさと、それでも好奇心からその場に挑んでいく、という旅そのものの醍醐味を味わえる場所という気がします。
「スパイスの〜」の歌はいさかっている人の顔の表情までみえるような、スパイスの香りが鼻先でつんとするような、まるで自分がその場にいるかのようにリアルな存在感でせまってきます。
羊の脳ミソはタラやフグの「白子」の味に似ている(美味しんぼより。)、です。
脳ミソが魚の白身に似てるワケないじゃん。
まぁ、大したことじゃないんですけど。
ブログでは、自分の歌が続くのは避けています。前の週、自分の歌だったので……。
yoyoさん、
「所在なさ」と、それにもかかわらず「挑む」という感じ、とても共感しました!
森さん、
ともかく未知の味ですもの。いつか出合うのでしょうか……。
市場は最もその国の食文化がわかるところ。この歌は、「スパイス」の一語から、スパイスを山盛りにして売っているような国、たくさん使う国、アジアの諸国や中近東などかな?など、、単に「外国」と言うのとは少しニュアンスの異なる感じ、市場の喧騒や勢い良く生きている感じが淡々と詠まれていながら、しかしよく伝わってきますね。
ところで、ホンコン(中国一般にそうかもしれませんが、私が気づいたのはホンコンででした)では小鳥の市場がありました(食べるためではなく、愛玩用の)。
明治時代に中国に行った人の日記を読んだら、中国には留鳥といって、飼っている小鳥に糸を繋いで散歩するという習慣があるようでした。古くから小鳥を愛玩していたようです。
「市場」にはその国の特色が現れていて面白いですね。
この歌のよさは「淡々と」なんですよね。
作りこんだ歌のよさもあるけれど、それこそスパイスみたいに、ぴりっとした感覚でさらっと詠まれた歌、私も作りたいなあと思います。
小鳥の市場のお話、ありがとう!
「小鳥の市場」というだけで想像力がかきたてられます!
スパイスという刺激、
絶妙です。Um...
掲載されるタイミング、センスの良さを
感じます。素敵だな〜
お褒めにあずかり、照れています。
私の歌ばかりになったり、1つのテーマに偏ったりしないように、気をつけております。
今思うと「喧騒」だったのかな。まったくさっぱり意味のわからないトルコ語が飛び交っていた、エキゾチックな風景がなつかしい☆
聞いてわからない言葉はまだしも、文字自体になじみのない国って、ちょっと不安……。
でも、それこそ旅の楽しみなのかもしれませんね。