2007年07月19日

「とんとん」と「くわんくわん」

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 吾の足を抱へしままに寝(いね)し子よ次は一番にとんとんするね
                  山下れいこ


 作者は保育士として長く働いた人である。お昼寝の時間だろうか、たくさんの子どもたちを寝かしつけていて、一人の子はとうとう先生にかまってもらえないまま、その足に抱きついて寝入ってしまったようだ。不憫に思った作者は、「今度のお昼寝のときは一番に…」とそっと心の中で約束しているのである。
 この「とんとん」は多分、保育園特有のことばだと思う。辞書にはない。小さい子どもを寝かしつけるとき、ゆっくりした呼吸くらいのリズムで「とん…とん…」と背中を軽く叩いてやると、安心するのか割とすんなり寝てくれる。私も息子が小さいとき、「とんとんして!」とよく言われたものだ。
 幼児語には、こういう音を重ねた畳語が多い。ちょっと分類してみた。

 @重ねるだけ    おてて(手)、おめめ(目)、おとと(魚)
 Aはねて重ねる   かんかん(髪)、ぽんぽん(お腹)
 B伸ばして重ねる  たーた(靴下)
 Cつまって重ねる  くっく(靴)

 母や祖母たちのやわらかい口調と共になつかしく思い出すのだが、今はほとんど使われないのではないだろうか。
 ひとつだけ確かめたいのは「くわんくわん」である。状況としては、スパゲティ・ミートソースやジャムのようなものが、子どもの口の周辺にべたべたと付着している。「まあ! お口のまわりがくわんくわん!!」というふうに使う。
 しかし、私の家族以外の人が使うのを聞いたことがなく、以前、何人かの友達に訊ねたところ「そんなことば、知らない。福岡の方言なんじゃない?」と言われてしまった。一人だけ東京出身の人が「知ってる!」と言ってくれたのが救いである。語源としては「食ったのに食わん食わん」から来ている、という説(by 私の母)があるのだが、真偽はわからない。
 どなたか、「くわんくわん」を知っている、自分の家でも使っていた、という方がいたら教えてください!!

☆山下れいこ歌集『水たまりは夏』(青磁社、2006年)
posted by まつむらゆりこ at 11:40| Comment(21) | TrackBack(1) | 元気の出る子育て短歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「くわんくわん」知らない方に1票。
神戸で言葉を覚えて、湘南で成長して、札幌から小倉まであちこち住んできたけれど、これまで聞いたことない(「くぁんくぁん坊主」という言い方は聞いたことがあるけれど、これは全然違いますね)。孫のところでも使ってないって。
幼児語って、地方の方言のほかに、保育園や一家でだけ通用する方言もあるようですね。
Posted by 濱徹 at 2007年07月19日 14:07
「くわんくわん」…聞いたことがあるような。懐かしい響きがします。ただ、そういうふうに使うということは知りませんでした。

家族や、親しい人にだけ通じる言葉っていいですね。その場にいた人にしかわからない特別の意味をもつ言葉とか。
その言葉を使った時に、その人との距離がいっそう近くなる気がします。
Posted by 封印 at 2007年07月19日 18:12
やさしい保育士さんの歌ですね。こんな心で子供たちに接してもらえてると思うとほっとします。
一方、待ちきれず保育士さんの足を抱いて寝る幼い子のことを思うと、やはり胸がつまります。うちの子はどうだったのだろうかと。
以前、洋書やさんで英語の幼児語の本を見かけたことがあります。他の国にもあるんでしょうね。子供のリズムにあった幼児語、もっと見直されてもいいかもしれませんね。

Posted by yoyo at 2007年07月19日 19:21
ほんとうにそうですね。
和歌に慣れていないので、由利子さんの解説で、ああ、そういう歌なのか、と思い、ほのぼのとした気持ちになりました。
世の保育士さんがみんなこんな方ばかりだったら、いい世の中になりますね。幸せな気持ちにしてもらえる歌です。
一方、yoyoさんのおっしゃるとおり、「うちの子はどうだったか」と思うと、きゅっと切ない気持ちにもなります。今からでも抱きしめてやりたいような…。
Posted by もなママ at 2007年07月19日 22:23
「くわんくわん」は、松村さんが紹介されているように、口の周りが汚れているというような意味で、私の母は使っていたと思います。
言われてみれば、語源は何だったのでしょうか?

母は、昭和7年生まれで、東京で育ち、父と結婚して福岡に移りました。

地域の違いというよりは、世代の違いなのかもしれませんね。母は、まだ元気にしているので、今度、電話でもして語源を確かめてみます。
Posted by 拓庵 at 2007年07月20日 00:18
「くわんくわん」について書き忘れたので、「もしかしたら」というのをちょっと。
自分は使ったことないし、使っている場面にもあまり遭ったことはないのですが、意味は知っていました。

一休さんか何かの昔話で、おだんごを食べたことが和尚さんにばれないように、小坊主が仏様の口のまわりにあんこをぬりつけて、「仏様が食べました」という話があります。で、和尚さんが仏様の頭をたたくと「くわーん」って音がして、うそがばれちゃうの。

まだ続きがあって、結局小坊主の勝ちになるオチもついてるんだけど、この話が語源ってことないかな(笑)
Posted by もなママ at 2007年07月20日 08:51
封印さん、
「家族や親しい人だけに通じる言葉」って楽しいですね!
私の実家では、弟が小さいとき「皮肉」のことを間違って「ひきにく」と言ったことから、今でも「またそんな挽き肉いう〜〜」などと使ってます(許せ、弟)。

yoyoさん、
歌って、作者が何を見ているか、なんです。作る人にとってはごくありふれた光景でも、読む人には発見や驚きになるということもあるので、まずは作ってみることなんですよ。

もなママさん、
この歌は、一首だけで読むとややわかりにくいと思います。前後の歌とか、作者の職業を知って読んで初めて、じんわりきます。一首だけで感動を与えられる歌って、やっぱり相当な名歌なんです!
おお、それに具体的な逸話をご紹介くださって、ありがとうございます。いきなり日本むかしばなしですね。

拓庵さん、
わぁ! 嬉しいコメントありがとうございます。私の母は昭和11年生まれです。お母様のお話、待っていますね。
Posted by まつむらゆりこ at 2007年07月20日 09:57
もなママさんと重なるみたいなんですが、
お友達の、ものしり旦那様曰く(落語の食わん、食わんから転じて、仏壇の鐘の音をくわん、くわんと表現し、幼子を仏前に誘うときに、くわんくわんしよう、といっていた)とのこと。
お口のまわりのよごれとともに、西日本では、わりとつかわれて、いるようです。

こういう、疑問をたずねることで、短歌の
すそのが広がっていくことが嬉しいです。
Posted by スマイル ママ at 2007年07月20日 11:22
おはようございます。
「くわんくわん」という言葉については、私はこちらではじめてお聴きしたように思います。今までも使った記憶がないので、多分・・・はじめてです。
ご案内にあるように、「とんとん」というお子様向けの言葉をはじめ、辞書に載っていなような言葉でも、大切にしたいものがたくさんありますね。「とんとん」の場合は、松村さんにご説明いただいた状況が、感覚的にはすぐに伝わる言葉だと思います。
方言にしても同様ですね。大切にしたいものがたくさんあります。
余談ですが、「つっぺる」という言葉はお使いになりますか?
多分、私が住んでる場所特有の言葉だと思うので、よほどのご近所さんでもない限り、ご存知の方は、まずいらっしゃらないでしょう。
この言葉は、車のタイヤが、田んぼにはまってしまったような状況で、
「車が田んぼにつっぺった。」
というような感じで使っています。
「おっぺす」という言葉もあります。
この言葉にはどんな意味があるのか、もしお時間あるようでしたら、考えて遊んでみてください^^
ではでは。
Posted by KobaChan at 2007年07月21日 08:31
スマイル ママさん、
貴重な情報をありがとうございます!
ネットで検索すると「東京の方言」という説もあるようです。

KobaChanさん、
「つっぺる」ということば、面白いですね。田んぼやぬかるみなど、粘性の高いものにはまってしまった感じがします!
「おっぺす」は何だろう……「失敗すること」かな? 照れ笑いと共に「おっぺっちゃったぁ〜」なんてね。
Posted by まつむらゆりこ at 2007年07月21日 11:58
たびたび失礼します。
松村さん、「おっぺす」について考察いただきまして、ありがとうございました。たぶんですねぇ、これは「押し込む」といような意味合いで使っているようです。
私の地域でも、かなり限定した場所で^^
私はこの言葉の意味を理解できずに、困った時がありました。
親戚の農家の仕事を手伝いに行った時のこと。
親戚のおじさんに
「それをおっぺせ。おっぺすんだよ。」
と指示されましたが、何をしていいのかさっぱりわからない。
「おじっさん、おっぺすって何?」
と聞いたらば、おじさん少し考えて、
「おっぺすはぁ・・・、おっぺすだ。」
って、説明になってないし・・・。

いやいや、元記事から脱線しすぎてしまいました。
失礼しました。
Posted by KobaChan at 2007年07月21日 16:02
山下れいこです。
 退職した保育士にとって、涙のでるようなコメントを頂きありがとうございます。

 さて、 くわんくわんに私が初めて出会った絵本を紹介します。
 
 『ふんふん なんだかいいにおい』
 にしまきかやこ (こぐま社)

「おおいそぎで ごはんを たべると どうなりますか。
 さっちゃんの くちのまわりは たまごのきみで くわんくわん。」

 1刷 1977年 なんと30年前ですね。

 くわんくわんってきっとこういう感じなのでしょうね。
 
Posted by 山下れいこ at 2007年07月23日 19:40
山下さん、
ようこそ!!
皆さま、作者の登場です(拍手)。

絵本の中の用例、活字になった「くわんくわん」をご紹介くださって、本当にありがとうございます。
このロングセラーの絵本と共に「くわんくわん」よ、永遠なれ♪
Posted by まつむらゆりこ at 2007年07月24日 09:25
わあ!作者の方からコメントが寄せられるなんて、素敵!(いっしょに拍手)

そして、山下さんのコメントで、私も思い出しました。どうして自分がこの言葉を知っていたかを!

松谷みよ子作の絵本『おさじさん』です。

あっちっち
あっちっち
おはなはやけど
ほっぺは
くわんくわん

うさぎのぼーやは
えーん
えーん

(初版発行1969年)

この絵本、長女に読んであげてたら、一冊まるごと暗誦するようになったのでした。20年前のことです。なつかしい!☆(感無量)

山下さん、退職なさったのですか。残念ですが、きっとあとに続く保育士さんも、みんなやさしい方々なのでしょうね。
Posted by もなママ at 2007年07月24日 09:53
こんにちは

この絵本は第24回青少年読書感想文の課題図書にもなっていて「くわんくわん」は30年間子供たちの間で親しまれてきたのですね。本当に「くわんくわん」よ、永遠なれ♪ですね。

「おおいそぎで ごはんを たべると どうなりますか。
さっちゃんの くちのまわりは たまごのきみで くわんくわん。」
夕飯のとき早速言ってみようっと♪

Posted by ろこ at 2007年07月24日 18:00
もなママさん、
わぁ、さすがですね。
松谷みよ子さんというやわらかなお名前にも、じ〜んとします。

ろこさん、
おお、またまた新たな情報が!
子どもの本の輪が広がって本当に嬉しいです(実は、児童文学が大好きなんです)。
Posted by まつむらゆりこ at 2007年07月24日 23:26
「くわんくわん」は、私はうちの小5の息子と一緒に、しょっちゅう使っています。チョコレートのアイスを食べたり、お好み焼きを食べたりすると、「あっまたくわんくわんだよ、鏡見てごらん」「あっほんとだ、くわんくわんだ」・・・こんな感じ、いつも、「もしかしたら死語かも」と思いつつ、「くわんくわん」という響きを懐かしみ、楽しみながら、愛用している私です。東京生まれの私にとっては、ちっとも違和感のない使用法なんですが・・・
Posted by 真下弘子 at 2007年07月31日 16:18
真下さん、

おお! リアルタイムで使っていらっしゃるというご報告に感激です。
息子さんが将来お父さんになったときにも愛用なさるかもしれませんね!!
Posted by まつむらゆりこ at 2007年08月04日 09:57
一ヶ月前の記事へのコメントで恐縮ですが、ちょうど「くわんくわん」について調べていて見つけたのでコメントさせてください。

私の母(昭和9年静岡生まれ)は「くわんくわん」を私が幼い頃、まさに口の周りがベタベタになったシチュエーションで記事の通りの使い方で普通に言っていました(ので、三つ子の魂で、私も今でも普通に使ってしまいます)し、今でも孫に言っているようです。父(昭和6年東京生まれ)は使っていた記憶がありません。

語源については今度母にあらためて聞いてみようと思います。
Posted by SHIDA at 2007年08月15日 16:30
SHIDAさん、
嬉しいコメント、ありがとうございます!
私の母は昭和11年生まれで、本籍は東京です。
「くわんくわん」が今も生きていること、とっても心強く思いました♪
Posted by まつむらゆりこ at 2007年08月15日 17:19
ずいぶん遅くなってしまいましたが、ご報告です。

「くわんくわん」を使っていたはずの私の母に、今日電話がかかってきた時に、語源を聞いてみようと、
「昔、口の周りが汚れた時に、くわんくわんって言ってたよね?どんな意味か知っている?」と尋ねたところ、なんと「私、そんなこと言ってたっけ?」と一蹴されてしまい、おまけにまったく母の関心を呼ばなかったようで、次の瞬間には、別の話題に切り替えられてしまいました。

昭和7年生まれで今年の10月には75歳になるので、覚えていなくてもしかたないのかもしれませんが…。

私の記憶だけという、曖昧な状況証拠に過ぎなくなってしましました。
Posted by 拓庵 at 2007年08月26日 17:41
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