若々しくって、可笑しくって、しんみりさせられる句がたくさんあって、嬉しくなる。
意味よりも響きまっすぐ遠花火
泉こぽ知らない声を出せるかも
圏外にいる煮凝りのなかにいる
遠くの花火の音が、どーんと胸に響く。その感じは、例えば「好きだよ」という言葉の意味ではなく、言葉に込められた響きや熱、かすかな湿りの方が大切だということを思わせる――。一句目を読み、そんなふうに受け取った。
二句目は、「泉こぽ」の初句が楽しい。小さな泉から水が湧き出る様子に、何か自分の新たな可能性を思う若さが感じられる。三句目は、句またがりのリズムと「圏外」という現代的な言葉を使った面白さが生きている。ちょっと行き詰まった状況のとらえ方がうまい。
作者は1971年生まれ、19歳のときから句作を始めた。大学院では、西東三鬼を中心とした近現代俳句をテーマに研究したという。高校教諭として「俳句甲子園」の監督を務め、勤務校のチームを優勝に導いた経験もある。
初々しい家族詠も魅力があふれている。
その人の家族となってルミナリエ
牽制がぽっと一球秋の家
俳句は一瞬を切り取るものだが、この二つの句には、ドラマ性を感じさせる時間の流れがあって、味わい深い。いろいろな場面を想像する楽しみがある。
ぼんやりと木になってみる野分あと
杜子春がそこに転んだ蒲公英野
しゃがむ時私はアジア春がゆく
たいていの句集は、編年体だったり季題順だったりするのだが、この句集は「ひとり」「ふたり」「家族」「みんな」という章だてになっている。坪内稔典さんが「俳句五百年の伝統」と題する評論を寄せていられるのも楽しい一冊である。
☆塩見恵介句集『泉こぽ』(ふらんす堂・2007年7月出版・2300円)
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後世畏るべし!
コメントできる言葉、恥ずかしながら、なし。
いや、一言。
由利ちゃんの意地悪!!
「物語のはじまり」の短歌に対して、俳句には一瞬を切り取る瞬発力(?)みたいなものがあるのでしょうか^^
「俳句甲子園」というものもあるのですね。この方のような先生に教えてもらったら、詩歌を作ることが楽しくなるでしょうね。
ところで、松村さんも俳句を作られることがあるのでしょうか?
塩見さんの句、とってもいいでしょう?
やわらかくって、鋭くて。
KobaChanさん、
今日お昼のNHKニュースで「俳句甲子園」の開会式を取り上げていて「おお!」と思いました。
私は、詩(のようなもの)は書くことがありますが、俳句は十数年前、頼まれて何句か作ったことがあるだけです。
三十一文字で世界を構築するなんて、歌人ってすごいなあ!と日ごろから思っていましたが、俳人の友達に言わせると、十七文字に慣れてしまうと、和歌が「長い」と感じるそうですよ(笑)。恐るべし、詩歌の世界…!
夏休みは、近所のトラブルで心身ともに疲れ果て、「短歌、俳句に親しむ」どころではなくなってしまいましたが、小島なおさんの「乱反射」だけは読み、ひたすら感心しておりました。
そうらしいですね。「七七」が短歌の情念なのよ。
山野いぶきさん、
いえいえ、俳句の鑑賞には全く自信がありません。ただ、塩見さんの句は、しみじみ「いいなあ」と思います。山野さんの心身のお疲れが、どうぞ早くとれますように!
ご紹介ありがとうございます!(気付くのが遅れてすみません。)そして、過大な評価まで頂いて感激しています。
神戸のジュンク堂で『物語のはじまり』手に入れました!素敵な短歌のエッセイ集で、読みふけっています。短歌から俳句の着想をもらっっているこのごろです。
こちらこそ、ご連絡せずに失礼しました!
たくさんの方が「この句集、欲しい!」と言っています。
拙著をお読みくださっているとは感激です。わたしも俳句から短歌の着想をもらっております。