2007年11月30日

恋と嘘

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  マカロンのももいろきいろかろやかな嘘ならついても        よいことにする               一木 仁奈

 マカロンは、粉砂糖とアーモンドやココナツの粉などをメレンゲと混ぜて焼いたお菓子で、色とりどりのものがある。そのさっくりとした味わいが、「かろやかな嘘」とうまく合っている。作者は20代。恋には多少の「嘘」もつきものなのだ、という余裕が感じられて、微笑ましい。
 英語の white lie は、研究社の英和辞典には「罪のない[方便の、儀礼的な]嘘」とよそよそしく書かれているが、オックスフォードの英英辞典で見ると「誰かの気持ちを傷つけないための小さな嘘」とあたたかく定義されていて、ちょっとじわっと来る。待ち合わせ場所でだいぶ待たされたけれども、相手が「ごめんごめん、待った?」と駆けてきたとき、「ううん。私もいま来たばかり」と言ってしまうことなどが、これに相当する。
 「ももいろ」や「きいろ」のマカロンに喩えられた嘘は、恋の場面におけるさまざまな嘘だろう。これとて、悪意のない、そして、あるときは相手を傷つけないための嘘に違いない。
 携帯電話というものがなかったころの、マカロン的嘘の話を一つ。
 恋愛初期は電話したくてもできない。しつこいとか馴れ馴れしいとか思われたくないので、やせ我慢するからである。こういう心理は多分、今の若者も変わらないだろうが、昔の場合は、電話して相手が出ないと不在であることがわかるだけでなく、着信履歴などが残らないという利点があった。
 「私に電話くれないけれど、家にいるのかな、いないのかな」と気になるとき、声が聞きたいけれど自分からかけるのは何となく気がひけるとき――そんな時どうしたか。相手に電話して受話器をとったかとらないか、あるいは声を聞くか聞かないかの一瞬で切るのである。その数秒後、高い確率で相手から電話がかかってくる。「さっき、俺に電話くれた?」。そう訊ねられると、いとも無邪気に「え? かけないけど。何で?」なんて言うのが常道であった。
 いつだったか数人の女友達とおしゃべりしているとき、この「嘘」の話をしたら、全員が同じ手口を使ったことのある事実が判明し、大笑いしたことがあった。恋はかくも愚かしく、女はかくも嘘つきなのだった。

☆「かりん」2007年9月号
posted by まつむらゆりこ at 09:19| Comment(17) | TrackBack(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
あれ、男の子だって電話、すぐきるのやったんです。ダイヤルしようかどうしようか、昔はなんであんなに悩んだんだろうか。ケイタイっつうのは、あじきないよなー。ようやく決意して電話してお父様なんかに出られたりしちゃって、へどもどしたりして、昔は可愛かったよなー。メールなんかなかったから、手紙が来ていないかとなんどもなんども郵便受けをのぞいたりして……。美しい日々だったなぁ。
Posted by 冷奴 at 2007年11月30日 12:45
冷奴さん、
えぇ〜〜、男性もやりましたか?
それにしても、携帯電話はつまらないですよね。手紙も電話も、ちょっと不便なところがいいです!
Posted by まつむらゆりこ at 2007年11月30日 13:15
マカロンは一口サイズの軽いお菓子です。
愛らしい嘘は「マカロン」にぴったりだとたとえの妙に脱帽です。
また松村さんの解説が可愛い!

偶然にも今日“マカロン・パリジャン"を作ったばかりでしたのでここを覗いてびっくり!もっとも私のは“マカロン・シッパイジャン”ですけど。


Posted by ろこ at 2007年11月30日 19:39
こんばんわ。
恋愛と電話の話で思い出したのですが・・・。
やはり、携帯などなかった時代に遠距離恋愛をしていまして、当時は常にテレフォンカードなるものを持ち歩き、良く公衆電話を使っていました。
ここ数年は、テレフォンカードにも公衆電話にもお世話になっていないなぁと思う次第です。
これもまた、時代の流れなんでしょうねぇ。
お写真のお菓子、美味しそうですね^^
Posted by KobaChan at 2007年11月30日 21:26
ろこさん、
何という偶然でしょう!
自家製マカロンに挑戦なさるとは、こちらの方こそ脱帽です。

そう、日本で普及しているのは「マカロン・パリジャン」で、他にもいろいろなマカロンがあるのですよね。
愛情あふれるお誕生日マカロン、きっと最高においしいことでしょう。
皆様、どうぞろこさんのブログを覗いてみてください。

KobaChanさん、
公衆電話で長電話、というのも風情がありましたよねえ。うしろに並ばれて舌打ちされちゃったりして。慌てて電話を切って、涙ぐんじゃったりして。
ああ、本当に愚かしくもかわいかったですね、若い日々は。
Posted by まつむらゆりこ at 2007年12月01日 09:18
公衆電話で長電話のはなし、じ〜んときますね。でも私にはかわいい思い出や、郵便受けをなんどものぞく、美しい日々がおもいだせない!恋も嘘も、のこりの人生で体験しよっかな〜、ナンバーディスプレイだと無理か。。。
Posted by スマイル ママ at 2007年12月01日 12:28
「全員が同じ手口を使ったことのある事実が判明し」
ありし日の決まり文句ですね。

小さな嘘、罪のない嘘。大事だと感じます。
正直だから、まっすぐだからいいってもんじゃない。

Posted by かたつむり at 2007年12月02日 11:24
スマイル ママさん、
いつになっても恋や嘘とは縁が切れませんよ! どうぞ存分に体験なさってください。

かたつむりさん、
はっはっは、「ありし日の決まり文句」は深く身に染みついております。
恋も「正直」「まっすぐ」だけじゃダメなんでしょう。直球勝負も悪くはないものですが。
Posted by まつむらゆりこ at 2007年12月02日 12:12
遠距離恋愛時代、毎日手紙を書きました。便箋を買って、切手を買って、ポストに入れて…彼のもとに行く手紙がうらやましくさえありました。自分もポストに入りたい、なんて、ね(笑)。

で、結婚したとき夫がしょってきた段ボールいっぱいのその手紙…いまさら見るのも恥ずかしいし、場所とるしで、困ってるんですけど。メールだったら消去できちゃうし、とっておいても場所とらないのにね(笑)。
Posted by もなママ at 2007年12月02日 15:40
もなママさん、
「毎日手紙」ってすごいです。その手紙をご夫君がちゃーんと「しょってきた」というのも美しい話!
ああ、こういう恋人たちの場合(初恋が実ったカップル?)って、「嘘」がないものかもしれませんねえ。
Posted by まつむらゆりこ at 2007年12月02日 16:21
松村さん、こんばんわ。
若き日の恋と電話に関するお話しがございましたので、そのつながりということで、当方の「長距離電話」からトラックバックさせていただければと思います。
もしご迷惑でないようでしたら、よろしくお願いいたします。
Posted by KobaChan at 2007年12月02日 18:03
電話なんか使わなくても、しょっちゅう会えていたのに、話せなくて、やっと決心して、話したら、即「ゴメンナサイ!」。そんな日もありました。過ぎにし日々は、哀しく・寂しく・美しく・・・
青春これから! 老春なんて言いっこなし!!
Posted by 濱徹 at 2007年12月02日 20:38
濱徹さん、
いろいろな過去が今の自分を形成しているんですよねえ(しみじみ……)。
Posted by まつむらゆりこ at 2007年12月03日 16:23
ブログ初めてで、やり方解らず、物語のはじまりの東直子さんの短歌の感想を最初のページに入れてしまいました。お暇な時に、お読みください。
Posted by けんさん at 2007年12月04日 19:27
けんさん、
コメント拝見しました。どうもありがとうございます!
これからもブログ見てくださいね。
Posted by まつむらゆりこ at 2007年12月05日 10:44
ご無沙汰しております♪

な〜んか、心当たりのある歌だったものですからちょっと足跡を・・・

マカロン、美味しいですよね☆

マカロンにも嘘にも電話にも色々思い出があります(笑)

当時を思い出して、ちょっと懐かしい気持ちになってしまいました。

Posted by 紺野百合子 at 2007年12月07日 01:48
紺野さん、
お久しぶりです。
「マカロン」の思い出がある、というのはお若い証拠ですね!
私の青春時代にはマカロンなんてなかったから、思い出のお菓子はリンツのチョコレートかしら……。
Posted by まつむらゆりこ at 2007年12月07日 08:39
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