2008年01月11日

気負い

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  ひとりにて育てあげんと知らぬまに気負いたり子は花の
  ごと泣く            石川 浩子


 どんな背景があるにせよ、シングルマザーの日常は苛酷である。
 一人で母親と父親の二役を果たすのは、なかなか大変なことだ。本当ならば、父親に叱られたあと、ぎゅっと抱きしめてやるのが自分の役目なのに、「片親の家庭に育っているからしつけがダメなのよね」なんて言われたくなくて、必要以上に子どもに厳しくなってしまう面もあるだろう。
 この作者は、そんな自分に気づくことのできる知的な人だ。自分の「気負い」に気づくことは難しい。気づかせてくれたのは、泣いている子どもである。たぶん、作者に叱られて、しゃくり上げていたのだろう。
 「花のごと泣く」という結句が、心底せつない。泣いている子どもを見ると、小さくて、はかなげで、いとおしさがこみ上げてくる。叱りすぎた自分が情けない気持ちもあるし、「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣く子どもが哀れで、自分も一緒に泣きたくなってしまう。
 作者自身が気づいていたかどうかは分からないが、そのとき彼女も「花」のような存在だったに違いない。それは、ひりひりと生きている実感に満ちた瞬間なのである。私にとっては、保育園に通う子どもと二人で暮らしていた時期が「花」だった。私にも「気負い」があり、今から思うと気恥ずかしくてならないが、それはそれで仕方ない。「気負い」は支えでもあったのだから。
 作者はすべての母への思いを込めて、歌集のタイトルを『マザーズ』としたという。シングルマザーへの思いは、ひときわ深かったに違いない。

☆石川浩子歌集『マザーズ』(ながらみ書房、2003年4月刊行)
posted by まつむらゆりこ at 09:46| Comment(20) | TrackBack(0) | 元気の出る子育て短歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
"「気負い」は支えでもあったのだから。"という言葉に共感!

たしかに振り返ってみると気恥ずかしいものだよね。
でも、気負わなければ生きていかれないよ…。

「気負い」のない人には魅力がないよね。
仕事でも、子育てでも、恋でも。

そして、あとで人知れず涙するような恥じらいのない人にも、魅力はないよね。

生きてることの醍醐味って、そんなパラドックスの中にあるのかなあ。
Posted by Lucy at 2008年01月11日 14:22
Lucyさん、
共感してくださって、とっても嬉しいです。気負いなく、いつも自然体の人にも魅力を感じるけれど、「気負い」って必要なものかも……あっ、「気負い」って若さなのかな?
Posted by まつむらゆりこ at 2008年01月11日 14:49
松村さん、はじめまして。
短歌には全く疎い私ですが、今日の夕刊で松村さんのインタビュー記事を読んで興味をもって訪問させていただきました。
私は子供いませんが、この短歌を読んだ途端、目にかすかに涙がにじみました。
光景と、母子それぞれの切ない気持ちが一瞬で伝わって、短歌ってすごいですね。
以前NHKでワーキングプアを取り上げた時の母子家庭のお母さんの顔を思い出しました。
昼間と深夜のパートを掛け持ちしてもギリギリの生活費で、いつ倒れるかわからない過労状態で懸命にふたりの子供を育て、まだ甘えたがる下の子を叱り、そして抱いてやるその姿を、思い出しました。
Posted by のぶこ at 2008年01月11日 19:03
のぶこさん、
はじめまして。このブログを覗いてくださって、とても嬉しいです。そして、この歌に共感してくださったことも!
何度読んでも作者の一所懸命さに胸を打たれます。途中まで説明的な固さがあるのですが、結句でふわーっと解かれ、読んでいる方も泣きそうになってしまうのです。
Posted by まつむらゆりこ at 2008年01月11日 20:01
こんばんわ。
立場は違うかもしれませんが、子育てに関わる親として「気負い」というものを感じることには、共感が持てます。
「良い子になってもらいたい。良い親になりたい。」
という思いは、やはり誰もが持つものでしょう。そして、そういう思いが強くなる時が、気負いを持つ時なのではないかと考えます。
そういう気負いを持ち、試行錯誤しながら、親は子育てを通して、自分自身の人生を学んで行くのだろうと、今回の記事を拝見して、そんなことを感じました。
Posted by KobaChan at 2008年01月11日 20:50
私事ながら、うちも父子家庭でしたが、父の「気負い」など、考えたことがありませんでした。
まるで、向田邦子のドラマに出てくるような、僕の父は、たしかに気負っていたかも知れませんね。
しかし、「花のごと泣く」はせつないなぁ。
読みかえすたびに、読むのが辛くなってくるぐらいに。
Posted by 森 at 2008年01月12日 14:45
KobaChanさん、
「よい子になってほしい、よい親になりたい」と願うばかりに気負いが生じる、という言葉、とっても心にしみました。そして、それは別に世間的な「よい」ではなくて、それぞれの理想なんですよね!

森さん、
おお、父子家庭のことをまるっきり失念していました! 女にやさしく、男に厳しいのが私の悪いところだとよく言われるのですが、KobaChanさんも書いてくださったように、父親にも「気負い」はあるはずですよね。そして、父母ともシングルでなくっても。ちょっぴり反省。コメント本当にありがとうございました。
Posted by まつむらゆりこ at 2008年01月12日 18:26
子育て真っ最中の自分の中にも同じような思いがあり、涙が出ました。
親の未熟を子供はいつも許してくれます。
歌集を購入したいのですが、図書館、アマゾン、ながらみ書房さんのホームページに見当たりませんでした。
もしご存知でしたら、問合せ先を教えてください。
よろしくお願いします。
Posted by mizuho at 2008年01月13日 16:00
mizuhoさん、
ご連絡差し上げたいので、もう一度コメントをメールアドレス入りで書き込んでくださいますか?
メールアドレスは、ブログ管理者の私しか見ることができないのでご安心ください。
そうしたら、詳しくお伝えできますので、どうぞよろしくお願いします。
Posted by まつむらゆりこ at 2008年01月13日 17:45
新聞の夕刊を切り抜いた記事を手に訪問しました。
私にとって大切なことを学ぶキッカケをいただきました。

キッカケの言葉は、「解凍」です。

圧縮された言葉も、心も、自然も、全てパソコン用語の「解凍」方式で
理解できると考えておりました。

理解できない時(自分の言語、論理で正解を出せない時)は圧縮した
プログラム言語が悪い、論理がないと、決めつけていました。

当然、そこには「共有」も「共感」も誕生しません。

「誕生」は喜びにつながります。

今まで、「喜び」がない理由がよくわかりました。

ひとりよがりでした。

今日からは、他のプログラム言語、論理を学んでいこう、と・・・・
せめて、理解しようとする姿勢からはじめよう、と・・・・

ありがとうございました。
Posted by ひろし at 2008年01月14日 04:06
ありがとうございます。
子どもの本屋「会留府」さんのブログに「物語のはじまり」のご紹介があり、こちらも読ませていただいています。
「物語のはじまり」で久しぶりに短歌に接して、胸が熱くなったり、涙が出たり(号泣に近かったり)。高校時代、国語の先生が授業で私が作った短歌を歌集に入れたのでと、わざわざ教室にもってきてくださったことを思い出しました。うれしくて、短歌を詠んだり、歌集をながめたりしていました。社会に出てからもう何十年も忘れていたことがよみがえりました。
また、日々の暮らしの想いを歌に残したい、短歌のことを学びたいと思っています。句会にも参加してみたいのですが、いろいろ調べてみても敷居が高くて迷っています。何かアドバイスがありましたら、あわせてお願いします。
Posted by mizuho at 2008年01月14日 14:33
ひろしさん、
「解凍」という言葉をとても深く読み込んでくださり、本当にありがとうございます。この言葉を最初に用いたのは、歌人の穂村弘さんです。私はこの考え方にいたく感激しました。

mizuhoさん、
ありがとうございます。後ほどメールしますね。
Posted by まつむらゆりこ at 2008年01月14日 18:34
過分なコメントいただき恐縮です。

(新聞記事を切抜くことは殆どありませんし
 また、プログへの書込みは初めてでした。)

今回、私の心を強く動かしたのは
記事に掲載されていた一首でした。

 愛 それは
  閉まる間際の保育園へ腕を広げて
    駆け出すこころ

「解凍」の話がなければ、なるほどねぇ〜
大変なんだな。で終わっていました。


「圧縮されている思い」を自分なりに「解凍」したとき
昔のある場面を思い出しました。

そして、
なぜ、相手の気持ちをわかろうとしなかった のだ。と。

「短歌しぐさ」を身につけていたら・・・・

大きなミスでした。

でも、この記事のおかげで、立ち直ることができそうです。

もう、会うこともないと思いますが・・・・・・
もし、会ったならば、心から「ゴメン・・ね」、と。

言えそうです。


重々、ありがとうございました。
Posted by ひろし at 2008年01月15日 13:49
花のごと泣く、がわからず、数日間悩んでいます。どう泣いているのでしょうか。この比ゆがわからないので、せつなくもなれず、困ったような申し訳ないような気持ちです。松村さんご自身のお話では、花が別の比ゆのようでつながらず、わからないのです。盛りだった、よい時代だった、という意味に読めましたが、それであっていますか。

必死に叱って母親はぎすぎすさえしているのに、こどもの泣き方が親をはっと吾にかえらせるような、拍子抜けして反省してしまうほどの、こどもらしい愛らしさに満ちたものだった、こどもの本分(花)そのものの自然な行為として妙にのびやかだった、のように読むとよいのでしょうか?それがかえって自分の気張りに気づかせてくれて・・・という。
Posted by chiho at 2008年01月15日 17:02
chihoさん、
ああ、私が途中で「よい時代」と「花」を重ねてしまったので、わかりにくくなったかもしれません。

「花のごと泣く」は、読む人それぞれの受け取り方をすればよいと思います。私は「はかなげに、身も世もなく泣いている姿」と取りました。幼い子どもというものは、食べるのも遊ぶのも精一杯。泣くのもまた然り、というわけで、小さな全身をふるわせて泣いている子の姿が思い浮かびました。でも、これが作者の「花のごと」と一致するとは限りませんし、chihoさんがぴんと来なくても、それはそれでいいと思います。
私にも、「名歌」とされている歌で、どうしても自分にそのよさ、美しさがわからないものがあります。万人に同じように受け取られる歌なんてないのですから、そんなに悩まないでくださいね。
Posted by まつむらゆりこ at 2008年01月15日 18:20
松村さん、こんにちは

私もchihoさんと同じように「花のごと泣く」をどう受け取るか悩みました。一読した時の印象は片親だからと後ろ指さされないようにとか、ふた親と同じように、あるいはそれ以上に愛情を傾けようという「気負い」を持っている自分であるのに、泣く子を見れば、そんな片親だ、ふた親だなどとは関係なく、わーわー泣いている。それはまるで邪気もなく、気持ちが良いほどの泣きっぷり。それは無垢な花のよう。そうだ!振り返ってみれば私って随分「気負って」いたんだなあと気づかせてくれた=「知らぬまに気負いたり」
のように受け取りました。

松村さんが「花のごと泣く」は、読む人それぞれの受け取り方をすればよいと思います。とおっしゃってくださったので、ほっと安堵しました。

短歌の魅力はそんなところにあるのかもしれませんね。歌の中にそれぞれの心に響くものがあってそれは同じでも違っても良いというような。
Posted by ろこ at 2008年01月15日 21:54
はかなげに泣いている姿、ああ、たしかにそれも「花のごと」ですよね。男の子でもいいのでしょうね。ご説明ありがとうございました。

わからないなりに、いわゆる名歌は、リズムがよかったり言葉が格調高い気はしますけど、この歌の場合、前半のいっきの直截さと子どもの様子をえがいた最後の落差が、感動をさそいます。それで深く理解したくて悩んでしまったのですが、楽しい悩みでした。松村さんの読みをうかがえて楽しさが増しました。
Posted by chiho at 2008年01月16日 00:13
「気負い」の項の書き込みはいつにもましてよい言葉が並んでいるなぁと思って読んでおりました。その背景に東京新聞の11日付松村さんの長尺のインタビュー記事があったことを教えてもらい、さきほど記事を熟読したところです。あんな濃厚なインタビューを久しく目にしませんでした。インタビューで松村さんはこの”そらいろ”についても「再読に耐える内容にしたい」と述べておられます。まさに「気負い」で一段深まった気がして、羨ましくてなりません。
Posted by 冷奴 at 2008年01月17日 12:28
ろこさん、
「気持ちが良いほどの泣きっぷり」という言葉、私も同じ印象を受けました! 人の目だとか何も気にせず、一所懸命泣いている感じがいいんですよね。

冷奴さん、
ありがとうございます。このブログはいろいろな方たちが読んでくださっていて、私の気づかなかったこと、知らなかったことをコメントで教えていただけるのが本当に有難く、嬉しいのです。
Posted by まつむらゆりこ at 2008年01月18日 09:54
冷奴さんに教えていただいて図書館で松村さんのインタビュー記事が載っている新聞をコピーしてきました。

そっくり載せましたので皆様、是非この素晴らしいインタビュー記事をご覧になってくださいますように:

記事は「松村由利子さんファン掲示板」にアップしました。
http://www.style-21.jp/bbs/torionna/index.html
Posted by ろこ at 2008年01月18日 21:20
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