人魚姫と王子が出逢うその脇でわかめになってそよぐわたくし
入谷いずみ
性格は変えられない。そのことを思い知るのは恋をしたときである。
この歌は、恋する二人の脇で、ちょっとおどけて揺らいでいる「わかめ」のような「わたくし」が詠われていて、「ああ、この人、好きだなあ」としみじみしてしまう。もちろん、作者が幼いころ学芸会か何かで実際に「人魚姫」の劇に出て、わかめの絵がついた紙製のお面などかぶって、舞台の袖の方でゆらゆら踊っていたのを思い出している、という解釈もできる。しかし、その場合でも作者の現在が重なっているのは確かであるから、彼女は今も「わかめ」だと考えていいだろう。
たぶん、この作者も「王子」が好きなのだ。でも、「人魚姫」みたいに、なりふり構わず、明日のことも考えず恋に突き進むというのは性格的にできないのではないか。そんなのは自分らしくないし、そこまでして王子に振り向いてもらおうとするのも、何だか気がひける。
おとなしい、というのとは違う。控えめで慎ましい、というのでもない。私は私、というのが一番近いだろうか。こういうタイプは、周囲がよく見えるために、損な役回りを引き受けてしまうことが多々ある。大勢で飲みに出かけるときは、かわいくメロメロに酔ってしまう、なんてこともなしに自分の適量を楽しみ、人の介抱をしたりして最後までしっかり者で終わる。ああ、もうそれは本当に「わかめ」である。
この歌の面白さは「人魚姫」にある。王子というものは往々にして鈍であるのだが、「わかめ」の気持ちに気づかないばかりか、結局、人魚姫の気持ちにも気づかずに終わってしまう。同じ結果に終わるのであれば、声を失ったり足の激痛に耐えたりすることなく、「わかめ」としての自分を全うするのがいいのではないか。きっと「わかめ」のよさを理解してもらえる、よき出会いがあるに違いないから。海は広い。
☆入谷いずみ歌集『海の人形』(本阿弥書店、2003年7月・税別2300円)
あたし、「わかめ」だったんだ!
でも、この歌を読んで、解説を読んだら、「わかめも悪くないかも」って思えてきちゃった。
「そよぐわたくし」。
ちょっといいかも☆
おお、あなたはしっかり者なのですね。
私は過去に1回か2回、人魚姫になったことがありましたが、いま思うと「赤面!」って感じです。わかめはわかめらしくあらねば。
今もその夢を見続けています。でも、夢からさめたら、また何度でも人魚姫になるかも…。由利子さんの文章読んで、はじめてそう思いました。
でも、あいかわらず飲み会では人の介抱にまわるクチです(笑)。
しかし、妙に納得です。
で、私は「わかめ」さん好きですね。
自分がしっかりしていないので、余計にそう思います。
あっ、それにどう考えても私は「王子」というキャラではないので・・・。
世の中には、「○○王子」とうのが流行りのようですが・・・。
「わかめ」はちびまる子ちゃんで言えば、野口さんなんですよね。
わたし、野口さんが一番好きです。
けっこう「わかめ度」高いです。
「たった一回だけ」というのがロマンチックですね! その歌をぜひ作ってみてください。
KobaChanさん、
「わかめ」は必ずしも、しっかり者ではないと思います。照れ屋だったり、不器用だったり……。
男性は誰でも、たった一人の女性にとっての「王子」じゃないかな、と思いますよ!
近藤かすみさん、
ご愛読くださって、ありがとうございます!
「ちびまる子ちゃん」の野口さんですか。面白いですね。私にとっての「わかめ」は、もうちょっと明るい剽軽者のようなイメージです。むしろ、おっとりした優しい「たまちゃん」の方が近いかな。
わたしは身をもって経験しました。人魚姫だった友人。いつもわかめさん的な私。あれから35年、私はひろ〜い海でマンボウのような人と鉢合わせ、今ではしっかり根を張って大波小波の中をそよそよと、時にはもみくちゃにされなが揺らいでいます。
いつもいつも短歌のもっている魅力を引き出し、伝えてくださってありがとう。
これっからも楽しみにしています。